鉄道ファンは悩ましい存在……鉄道会社がそう感じるワケ杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)

» 2012年03月09日 19時20分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

鉄道会社にお金を払わない鉄道ファン

 野村総研が挙げたオタク分野と市場予測は、「お金を払う側」を分析した資料として目安になる。しかし、ここには意外な盲点もある。それは「誰がお金を受け取るか」という部分だ。もちろんオタク向け商品を売っている側に決まっているわけだが、鉄道趣味はそこが特殊だ。本来のコンテンツ提供者「鉄道会社」がもうからないからである。

 コミックオタクの主なお金の使い道はコミックの購入である。出版社と作者にお金が還流される。アニメ、ゲーム、PC、AV機器、携帯型IT機器、クルマ……どれも同じ。趣味の対象物を購入し、趣味の対象物を生み出した者にお金が入る。芸能人そのものを買う人はいないが、CDやDVD、写真集の購入やライブチケットの売り上げは芸能人に還流される仕組みができている。

 では鉄道はどうか。鉄道ファンは鉄道にお金を払っているのか。ほとんど払っていない。ここが鉄道趣味と他のオタク趣味との違いだ。

 高級カメラと長い望遠レンズで列車を撮り、高価な鉄道模型を収集する。鉄道ファン向けの書籍、写真集も山ほどある。こうした趣味行動を見ると、鉄道ファンはお金持ちに見える。しかし鉄道ファンのお金は、趣味の対象である鉄道会社にほとんど還流されない。そのお金はどこへ行くかと言えば、カメラメーカー、撮影地に向かうクルマのメーカー、模型、本を作る出版社などである。鉄道そのものを提供する鉄道会社にはほとんど届かない。これが鉄道趣味の特徴であり、他のオタク市場と決定的に違うところである。

 コミック、アニメなどの提供者にとって、ファンは重要なお客さま。いや、お客さまそのものだ。しかし鉄道会社にとってお客さまとは「通勤通学や用事、旅行で列車に乗ってくれる人」である。鉄道ファンは鉄道会社のお客ではない。もちろん切符を買って列車に乗るファン(乗りテツ)も多い。しかし自嘲を込めて言えば、筆者も含めた乗りテツのほとんどは「いかに安い切符でたくさん乗るか」を極めようとする。切符の規則や制度に注目しており、周遊切符や複雑な経路の長距離切符など、手間のかかる切符を要求する割に売り上げは小さい。あんまり良いお客さんとはいえないのだ。

大井川鐵道は観光SL列車を運行する。鉄道趣味を前面に押し立てた鉄道会社といえる。

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