エレキギター+バイオリン、新楽器“ヴィオラフォン”を発明した日本人世界一周サムライバックパッカープロジェクト(2/3 ページ)

» 2012年03月27日 08時00分 公開
[太田英基世界一周サムライバックパッカープロジェクト]
世界一周サムライバックパッカープロジェクト

「楽器が進化していない!」

――楽器ヴィオラフォン発明のキッカケについて教えて下さい。

 学生のころは時間もあったのでギターを弾いて音楽をやっていたのですが、東京で働き始めたら多忙で仕事脳になりすぎて、音楽を創造するマインドになれなかったので10年ぐらい楽器から遠ざかっていたんです。

 そして、ドイツに住み始めて1年ぐらい経つと、時間に余裕ができて音楽をまたやりたくなったんです。それで早速ドイツの大型楽器店に行ったのですが、そこで見たのは10年前に最後に行った日本の楽器店とまったく同じ光景で、同じ商品が並んでいました。主力商品のエレキギターは形、色、部品細部まで、まったく変わっていないことに驚きました。

 こういった印象を持ったのは、僕が移り変わりの速いIT業界で仕事していたこともあると思います。10年前の携帯電話やPCを今使えと言われても困りますもんね。また、楽器の機能面がまったく進化していないことに違和感を持ちました。

 そこで、エレキギターに何らかの機能改善をできないかと思って、最初に考えたのが自動チューニング機能です。チューニングというのは、ペグと呼ばれるネジを回して弦の張力を調整し各弦の音程を調律することですが、もちろんこの作業もギタリストたちは今でも手で行っていて、演奏前にチューナーという機械を使って1〜2分かけてチューニングしています。

 初心者にとっては機械を使っても難しい場合があり、ギターを始める最初の壁となります。そこで、このペグに電動モーターを付けてチューナーで制御できれば、自動でチューニングしてくれるというアイデアを思いつきました。それなら初心者から上級者まで数秒で演奏に集中して始められます。

 「これはすごいアイデアだ!」と思ってインターネットで調べると、2007年にすでに発明されて商品化されていました。しかし、高額すぎてあまり出回っていないようでした。

 「残念」とは思ったのですが、このアイデアが出たのが2007年。もし僕が音楽をやめずに続けていたら先に発明していたかも、やはり楽器店で感じた進化が止まっている感触は間違いじゃなかったと思い、ほかにもそういったアイデアがないかと思っていました。そこで機能面ではなく、音の面で新しいものを開発できないかと思ったのです。

 エレキギターは、メロディーも弾けるし、コードも弾けるし、きれいなクリーントーンも出せれば、迫力のあるオーバードライブ、ディストーションサウンドも出せる、万能でいて演奏もそれほど難しくないすばらしい楽器です。

 しかし、1点だけ昔から気になっていた点がありました。それは音の鳴らし方です。ギターは指か、ピックで弦をはじく撥弦(はつげん)楽器ですが、この撥弦楽器はすべて、弦をはじいた時のアタック音とその後減衰していくサスティーン音で音が構成されています。

 しかし、この音をもっと自在にコントロールできる楽器があります。それがバイオリンやチェロのように弓で弦をこする楽器、擦弦(さつげん)楽器です。擦弦楽器は、音の出始めから終わりまでを弓をこする強弱で自在にコントロールできます。これが、特にソロ演奏で表現力が豊かと言われているゆえんです。

 そこで、この擦弦楽器の良いところを撥弦楽器であるエレキギターに付け加えたら最強の楽器になるのではないかと思って考案したのがヴィオラフォンです。結果、擦弦楽器で和音を弾ける楽器を発明することができました。

――ヴィオラフォン発明・製造などの段階で苦労・挫折を経験したエピソードがあれば教えて下さい。

 最初、さまざまなモノや方式で弦を擦ったり、振動させるテストを行いました。モノですと、やすり、木の棒、リボン、ゴムバンド、歯車、そのほかスーパーやホームセンターで、弦を綺麗な音で擦ることができるものがないか捜しました。電動歯ブラシも試しましたね(笑)。

 しかし、どれも聞き苦しい音しか出なかったので、弓の毛である馬の尻尾に比較的近いと言われている釣り糸を束ねて作った弓に松脂を塗って試したら、心地良い音がなり、びっくりしました。

 後日、バイオリンの弓で試したら、すばらしい音が出て感動しました。楽器が進化していないことから始まったアイデアでしたが、16世紀に生まれたバイオリンの歴史も伊達じゃないなと思いました。

 その後、この楽器を世界中の人に使ってもらいたいと考え、普及を目的とした事業としようと思い、製造先を探したのですが、これが非常に大変でした。

 ドイツと日本の双方で職人さん、工房、工場に100社以上に当たりましたが、条件の合う先が見つからず苦労しました。特にコストがほとんど合わず、原価で1台30〜50万円、高いところだと100万円以上の見積もりが来ました。初めての楽器製作に作る側も不安を覚えていたようで量産のイメージもなかったようです。

 しかし、事業の目的は、万人への普及ですので、エレキギターのような普及価格帯にしたいと考え、粘り強く捜し続けました。そして日本の工場と契約することができ、売価も15万円強で提供できるようになりました。

――ヴィオラフォンの今後の日本での展望、世界での展望について教えて下さい。

 ヴィオラフォン事業の目標は世界的な普及です。ギターやバイオリンのように誰しもがその名前を知っているような楽器になり、世界中のプレイヤーの音楽に生かしてもらいたいと考えています。

 具体的にはまず100台を出荷したいと思っています。そして1000台、最終的には夢の1万台を目指したいと思います。

 そのために、日本では、製造とボトムアップマーケティングを、米国や欧州ではトップダウンマーケティングで有名ミュージシャンへの楽器提供や展示会への出展を計画しています。

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