震災とタブレットが変えるメディアの未来遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(2/4 ページ)

» 2012年05月02日 08時00分 公開
[遠藤諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研

震災は高齢者や女性の意識を変えた

 アスキー総研の1万人調査では、「東日本大震災以降の意識・関心・ライフスタイルの変化」という16の設問を集計した。下の図は性年代別の集計結果の一部だが、「ニュースへの関心が高くなった」「政治や社会制度への信頼感が低くなった」など、多くの項目で年齢が高いほど「該当する」(意識の変化があった)という比率が多い。また、女性が「該当する」と答えている傾向も高い。このデータを見る限りだが、「東日本大震災は、女性の、しかも年齢が高い人ほど心理面での影響が大きかった」と言えるのではないか。

東日本大震災以降の意識・関心・ライフスタイルの変化

 「貯蓄・保険への関心が高くなった」では、男性は30代後半が高く、女性は20代が該当していると答えている。そして、「メディアに対する信頼感が低くなった」に対しては、10代を除く全世代が15%程度の割合で「該当する」と答えている。ほぼ全世代にわたって「メディアの信頼感が低下した」とは、どんな意味なのかをにわかに判断できないほどの出来事なのではないか?

 この背景には、Twitterやブログなどの新しいメディアで、当事者や専門家の意見、記者会見のストリーミング、海外メディアの扱いなどに、容易にリーチできるようになったことがある。事実、「ニュースの情報源」としてTwitterを挙げる人では、35.7%が「メディアに対する信頼感が低くなった」と答えている(言うまでもなく、新しいメディア=信頼できるという意味ではない)。

 しかし、Twitterの利用者は20代がピークであり、そういった若年層はもともとメディアに対する信頼感が低いという見方もあるだろう。高年齢者や女性層は、ソーシャルメディアの影響とは関係なく、従来のメディアへの信頼感を失ったのだともいえる。彼らが、ニュース、政治、社会制度、環境などへの関心が高まったと答えている状況に対して、メディア全体が十分には応えられなかったのではないだろうか。

 震災の影響は、コンテンツの消費においてもあったはずだ。東日本大震災の後、映画館に映画を見に行く人は一時的に増えたが、夏以降には低下し始め、年間興行収入は1812億円と、前年比82%となった(日本映画製作者連盟による)。その理由としては、過去最高の興行収入だった2010年に比べて、ヒット作に恵まれなかったというのはあるだろう。

 しかし、2011年の映画市場に関してアスキー総合研究所で行った調査では、映画を見られる心理状態になかったという人も一定数いた。また、外国人俳優がほとんど来日しなくなったこと、一度映画館に行かなくなったことで予告編によるインプットもなくなったことなど、複数の要因の結果、映画が家族や友達との間で話題にのぼらなくなってしまった。この場合、関心のサイクルを、何らかのかたちで戻してやる必要がある。

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