鉄道自殺は増えていない。自殺全体が増えている杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)

» 2012年05月25日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 年次別自殺者の統計を見ると、1978年(昭和53)年から1997年(平成9)まではだいたい2万人台前半だ。しかし1998年(平成10)年から8000人も増えて3万人台前半となり、2011年(平成23)まで3万人を下回らない。自殺の理由に変動はないが、自殺者全体が増えていた。

 私の「鉄道自殺が増えた」という印象は間違ってなかった。ただし、鉄道自殺だけが増えたわけではなく、自殺者全体が増えていた。中村氏の記事にあるように鉄道自殺が「他人への影響力が大きく報道されやすい」から、目立ったようだ。

年次別自殺者数(クリックして拡大、出典:警察庁)

鉄道自殺は「お手軽自殺」。ちょっとした工夫で防げそう。

 私の仮説「飛び降り自殺の志願者が飛び込み自殺を選んだ」は間違っていた。間違ったという意識で両者の手段を考えると、両者の違い、いや、自殺手段全体のなかで「飛び込み自殺」の特殊性が際立ってきた。

 「飛び込み自殺」以外の手段は「死ぬための準備」が必要だ。ビルやマンションから飛び降りるためには、まず「高いところに上る」必要がある。壁を乗り越えたり、落下防止フェンスを破る必要もある。最近は、簡単に入れる建物も探さなくてはいけない。

 縊首も準備が必要だ。ロープを用意し、それを引っ掛ける場所を探さなくてはいけない。ガスは死ぬまでに時間がかかるので、心の準備が必要。睡眠薬など薬物もそれを準備しなくてはいけない。溺死(入水)も海に行く必要があるし、深いところを探さなくてはいけない。これらに比べると、鉄道自殺は手軽だ。何かの用事で出かけた時に、ふと死にたくなったら、目の前の電車に向かってちょっと前進すればいい。その意味では、自傷自殺も似ているかもしれない。手近な刃物を使えるからだ。ただし、たくさんの人を巻き込まない。

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