意外にオイシイ? 「誰も損しない」駅から歩こうイベント杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)

» 2012年06月01日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

空気輸送対策の処方せん

 都心と郊外を結ぶ鉄道路線にとって、通勤時間帯以外の輸送需要の開発は重要な課題である。阪急電鉄を創業した故小林一三氏は大阪の箕面市に動物園を作り、兵庫県の宝塚市に新宝塚温泉を開発した。これは休日の鉄道需要を喚起する目的もあった。宝塚に関しては歌劇団が成功し、その後は宝塚歌劇団、東宝グループとして、きっかけとなった鉄道の存在を忘れさせるほどの規模となっていく。

 こうした施策に他の私鉄も追随し、沿線に遊園地やレジャーランドが作られた。この「駅から歩こう系イベント」は小林氏のアイデアのミニマム版といえる。「平日の午前中から、終点に近い駅で開催する」という部分が重要だ。通勤ラッシュとは逆方向で、車庫に返すだけの空いた電車にお客さんを乗せる仕組みである。鉄道会社にとっては空気を運ぶような列車で運賃を得られる。そして参加者のほとんどは座って行ける。

 1回100万円の「駅から歩こう系イベント」にかかる経費はどうだろう。参加者から見える範囲では、ひとりひとりに配布されるB4サイズの2色刷り地図、小さな受付用紙。減価償却を考えれば、備え付けの鉛筆、テーブル、テント。あとは受け付けや要所の警備のために配置される社員の人件費。見えないところでは保険料や企画する部門の費用などがかかってくるだろう。

 しかし、大規模レジャーランドに比べれば、利益率は高い。もっとも、イベントへの直接利益ではなく、運賃という間接的な利益だけれども。

 参加者は無料なので「出血大サービス」かと思ったら大間違い。「駅から歩こう系イベント」は事業というべき収入源だった。西武鉄道の場合は参加者にスタンプカードを渡し、スタンプを集めると抽選で商品をプレゼントしたり、ポイント付きイベントでは、1000ポイント貯まるとPASMOにチャージしてくれたりする。なかなか力が入っているのだ。

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