烏賀陽:あれはいい本ですが、特殊なケースですね。筆者は三浦英之さんという記者です。彼は中越沖地震のときに柏崎刈羽原発の取材もしている。原発災害の取材経験があるんだから、福島の支局で記事を書いてほしかった。なのに、宮城の被災地に配置した。「もったいない」って、私は不満をブーブー言ってます(笑)。
『南三陸日記』は「定点観測取材」です。それはいいのですが、その限界もある。新聞社は取材の受け持ち区域を行政区域で決めるので、そこにいると、取材対象が物理的に限られてしまうんですよ。
南三陸にこういう現実がある。それを岩手県、宮城県、福島県の被災地を動いてみて、どこがどう違って、どこがどう同じなのか、他の地域と比較してほしい。でも、それができない。これだけ長い海岸線が壊滅してるんだから、そういう取材のアプローチがあってもいいと思う。地形、地元産業によっても違うし、産業がどのくらい破壊されたのかというのも違う。被災地は1つ1つ違うのに、そういうヨコの比較に極端に弱いんですよ。
広域的に動く記者は、新聞社にはいないんですよね。三浦さんのようにすごく優秀な記者を投入していて、経験もあり筆もたつという人を空間的に縛ることで、広域取材をできなくしている。私が本で書いた「断片化」(※)です。わざわざ芽を摘んでいるようなものだ。
相場:定年退職の記者を呼び戻す、といった動きはないのでしょうか? 朝日新聞の元記者・高成田亨さんは、震災関連の取材を積極的にされています。
烏賀陽:現場の記者が東電の発表、政府の発表できりきり舞いしているのであれば、定年退職した人を呼び戻しては、という声はありました。元原発担当だった記者や、被災した街の駐在だった人はいっぱいいる。じゃあ、例えば65歳までの元記者を非常招集して取材に投入したらどうだと。できそうでしょ? でも、できない。
なぜなら新聞社の労務部や人事部あたりが反対するから(笑)。彼らはこのように言います。「そういう雇用システムは対応しておりません」「そういう人たちにどういう基準で給与を払うんですか?」「現役社員との整合性はどうするんですか?」「労働組合にどう説明するんですか?」「労災が起きたらどうするんですか?」などと、わーわーわーわー言ってくる。そうすると社会部長や編集局長は「そんなにめんどくさいことなら、もういい!」となる(笑)。
相場:でも、もったいないですよ。
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