原発報道、なぜ詳しい人が書かなかったのかさっぱり分からなかった、3.11報道(5)(2/4 ページ)

» 2012年08月01日 08時02分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

烏賀陽:あれはいい本ですが、特殊なケースですね。筆者は三浦英之さんという記者です。彼は中越沖地震のときに柏崎刈羽原発の取材もしている。原発災害の取材経験があるんだから、福島の支局で記事を書いてほしかった。なのに、宮城の被災地に配置した。「もったいない」って、私は不満をブーブー言ってます(笑)。

 『南三陸日記』は「定点観測取材」です。それはいいのですが、その限界もある。新聞社は取材の受け持ち区域を行政区域で決めるので、そこにいると、取材対象が物理的に限られてしまうんですよ。

 南三陸にこういう現実がある。それを岩手県、宮城県、福島県の被災地を動いてみて、どこがどう違って、どこがどう同じなのか、他の地域と比較してほしい。でも、それができない。これだけ長い海岸線が壊滅してるんだから、そういう取材のアプローチがあってもいいと思う。地形、地元産業によっても違うし、産業がどのくらい破壊されたのかというのも違う。被災地は1つ1つ違うのに、そういうヨコの比較に極端に弱いんですよ。

 広域的に動く記者は、新聞社にはいないんですよね。三浦さんのようにすごく優秀な記者を投入していて、経験もあり筆もたつという人を空間的に縛ることで、広域取材をできなくしている。私が本で書いた「断片化」(※)です。わざわざ芽を摘んでいるようなものだ。

※「断片化」が、新聞テレビの報道でも起きている。まず「記事が相互のつながりや関連性を見失ったまま、ばらばらに出ている」という「記事の断片化」がある。またそれを書いている記者たちがばらばらのまま組織として機能していない「組織の断片化」がある。(『報道の脳死』119ページより)

定年退職した記者が書けないワケ

相場英雄氏

相場:定年退職の記者を呼び戻す、といった動きはないのでしょうか? 朝日新聞の元記者・高成田亨さんは、震災関連の取材を積極的にされています。

烏賀陽:現場の記者が東電の発表、政府の発表できりきり舞いしているのであれば、定年退職した人を呼び戻しては、という声はありました。元原発担当だった記者や、被災した街の駐在だった人はいっぱいいる。じゃあ、例えば65歳までの元記者を非常招集して取材に投入したらどうだと。できそうでしょ? でも、できない。

 なぜなら新聞社の労務部や人事部あたりが反対するから(笑)。彼らはこのように言います。「そういう雇用システムは対応しておりません」「そういう人たちにどういう基準で給与を払うんですか?」「現役社員との整合性はどうするんですか?」「労働組合にどう説明するんですか?」「労災が起きたらどうするんですか?」などと、わーわーわーわー言ってくる。そうすると社会部長や編集局長は「そんなにめんどくさいことなら、もういい!」となる(笑)。

相場:でも、もったいないですよ。

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