烏賀陽:東京の科学部が大阪にいい記事を書かれるのが嫌だったということも、背景にあると思う。しかしそんなつまらない社内事情は、読者にとっては関係のないこと。ニュースとして大事なことであれば、大阪から出ようと、東京から出ようと、読者に届けるべき。これは大原則だと思う。
もしSPEEDIに関する記事がもっと早く掲載されていれば、住民はもっとうまく避難できたかもしれない。そう考えれば、社内の対立構造というのは「人畜有害」じゃないですか。取材のためのチームを臨時編成するどころか、平時と変わらないのんきな社内抗争をやっている。
相場:本当に読者のためにやっているのかどうか、非常に疑問ですね。
多くの記者はデスクのシフトを見ながら原稿出す瞬間を考えているのではないでしょうか。「このデスクがいるときは、原稿を出すのやめよう」といった感じで。
烏賀陽:聞かれるまでもなく、それはごく当たり前の所作です(笑)。
相場:この記事を掲載したい……と思っているのに、「今日はあのデスクだから、出さないでおこう」と明日にまわす。そうしたら、他社に抜かれてしまった……。大手新聞社で働いた経験がある記者であれば心当たりがあると思うのですが、こういうのもどっちを向いて仕事をしているのか分かりませんよね。
烏賀陽:社内に向けて仕事をする人もいるし、取材先の悪いネタはつぶし、都合の良いモノしか書かない人もいる。で、読者の方を向いて書いている記者は、“傍流”に行きますよね(笑)。出世しない。
相場:ですね(笑)。
(つづく)
烏賀陽弘道(うがや・ひろみち)
1963年、京都市生まれ。1986年に京都大学経済学部を卒業し、朝日新聞社記者になる。三重県津支局、愛知県岡崎支局、名古屋本社社会部を経て、1991年から2001年まで『アエラ』編集部記者。 1992年にコロンビア大学修士課程に自費留学し、国際安全保障論(核戦略)で修士課程を修了。1998年から1999年までニューヨークに駐在。 2003年に退社しフリーランス。著書に『「朝日」ともあろうものが。 』(河出文庫)、『報道の脳死』(新潮社)、『福島 飯舘村の四季』(双葉社)などがある。UGAYA JOURNALISM SCHOOL、ウガヤジャーナル、Twitterアカウント:@hirougaya
相場英雄(あいば・ひでお)
1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo
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