武山さんは「案内ついでに別のところも見せたい」という。それは、北上川の河口にある松原海水浴場跡。大川小から約6キロの地点だ。震災前は防風林の松林があったが、津波によって松が倒され、見る影もない。
武山さんは震災当初はほぼ毎日、今でも週6日はこの砂浜を歩いている。行方不明になっている人の骨を探すためだ。
「母親は震災後すぐに発見されていたが、身元不明の状態だった。最初のころ、遺体安置所を回ったが見つけられなかった。でも、昨年のお盆の時にDNA鑑定で身元が判明した。大川小の子どももまだ4人が見つかってない。地域の人もまだ30〜40人が見つかっていない。1人で探したところで見つかるもんじゃないけど」
行方不明の人はいまだに多い。2012年8月1日時点で、東日本大震災の死者1万5867人に対して、行方不明者は2903人。警察やボランティア、遺族が捜索してもなかなか見つからない。武山さん自身の両親も津波に飲まれた。しかし、自力では発見できなかったが、2人とも誰かが見つけてくれていた。その恩返しの意味を込めている。
「最初に探していた時は、形が似ているものがあればすべて骨に見えていた。小さな骨は見つかるが、鳥の骨だったりする。太い骨でも人間のものとは限らず、牛だったりすることもある。(人の骨は)なかなか見つからない」
これまでに武山さんは人骨を見つけたことがあった。ただ、DNA鑑定で分かったことだが、津波の犠牲者ではなく、墓地に埋葬していた人の骨で100年以上も前のものだったという。
この日も海岸線を数十分歩いた。波打ち際にいろんなものが打ち上がっている。
「海が荒れた日の後に来ると、いろんなものが打ち上がっている。そういう時の方が可能性が高い」
前日は雨が降った。そのため、砂浜の地形も変わっている。何か人骨らしいものを見つける。そのたびに近寄って確認する。そうしたことを繰り返していると、武山さんは何かを見つけた。
骨だ。
「これは人かな……動物かもしれない」
大腿部に近付け、自分の足と比べている。人間だとしたら、大腿骨のようにも見える。しかし、素人目には人間なのか動物なのかははっきりしない。人間の可能性を信じて、警察に届け、DNA鑑定をしてもらう。砂浜を歩くのは平地よりも疲れるものの、「もしこれが人間だったら、と思うと……」と達成感を得たような表情だった。
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