大人たちよ「子どもに旅をさせよう」――何かを手にするはずだ杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)

» 2012年08月24日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

6歳児すぎやまの冒険

 私が初めて一人旅をしたのは、小学1年生のときだ。東急池上線の洗足池駅から五反田駅に行き、バスターミナルから新橋行きの系統に乗って「一の橋」で降りる。目的地は麻布十番商店街の蕎麦屋の角を曲がった町工場。今は焼肉屋さんになっているが、そこが当時は祖父の家だった。父や母に連れられて何度も通ったルート。だから独りで行ける、行きたいと思った。

 でも、実際に1人で行動すると不安だらけだった。最大の難関はバスだ。どの行き先も同じ色で、間違えたらどうしよう、と思った。新橋行きの◯系統……と呪文のようにつぶやいていた。車内では運行系統図を見つめて、一の橋まであといくつ……と数えた。景色を見る余裕はなかった。バス停に迎えはなく、仕事中の祖父は私を見て「よく来たな」と褒めてくれた。そこで私はやっと安心し、大きな達成感を得た。

 この経験で私が何を学んだのか。今思うと「自分で動かなければ何も始まらない」「自分で決めなくてはいけない」というようなことだった。黙っていても誰も世話を焼いてくれない。自分できっぷを買わなくてはいけないし、電車やバスの行き先も自分で選ばなくてはいけない。トイレのタイミングも、水筒の水を飲む量の配分も自分で考えて決めなくてはいけない。

 そして、予定通りのルートで行動すれば、必ず目的地に着くこと。到着したときの達成感の気持ち良さも体験した。さらに「案内標識を正しくたどっていけば、自分はどこにでも行ける」という自信が生まれた。

1人で初めて乗った電車は東急池上線。しばらく古い電車ばかり走っていた

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