なぜ大田区は京急電鉄への怒りをおさめたのか杉山淳一の時事日想(1/3 ページ)

» 2012年08月31日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 大田区が京急電鉄に対して振り上げ、置きどころのなかった拳をやっと降ろした。事態を収束できてホッとしたことだろう。大田区と京急電鉄がケンカしても大田区にはメリットがない。もっとも京急電鉄は終始一貫、動じることはなかった。立派だ。

 大田区がなぜ京急電鉄に対して怒っていたかというと、2010年5月に京急電鉄が実施したダイヤ改正で、京急電鉄が品川から羽田空港までノンストップの「エアポート快特」を設置し、京急蒲田駅を通過したからだ。京急蒲田駅は京急電鉄の「快特」がすべて停車する駅だった。「快特」は、特急の上の種別である。有料のホームライナー「ウィング号」を除くと、京急電鉄で最も速い。

エアポート快特は京急蒲田駅に停車しない(出典:京急電鉄)

 そもそも、この快特という種別も、登場当時は京急蒲田駅を通過していた。のちに空港線との乗り換えを考慮したため停車駅となった。空港アクセス輸送の一環だ。蒲田という街を重視したわけではない。しかし、停車したからには蒲田の人々の既得権と化した。

 いままで停まってくれた列車が通過する。駅としては「格下げ」だ。「区役所の最寄り駅を通過するとはけしからん」「ダイヤ改正のきっかけとなった立体交差事業には大田区もカネを出したのに、電車が通過では意味がない」と言いたかったらしい。これに対して京急電鉄は、大田区の抗議にもかかわらず、予定通りダイヤ改正を実行した。

 その後、大田区は東京都や国も巻き込んで京急電鉄との協議会を実施したが、京急電鉄はダイヤを変更せず、協議会も2010年10月28日の第2回以降は開催されなかったようだ。その後は区長から議会への報告も「京急電鉄へ要望を続けていく」(2011年2月)とトーンダウンし、以降は触れていないようだ。

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