防災グッズに加えるべき「感染症対策のための三種の神器」とは?9月1日は防災の日(1/2 ページ)

» 2012年08月31日 19時10分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

 グローバル・ハイジーン・カウンシル(世界衛生機構、以下GHC)は、災害時の感染症を防ぐために家庭や企業での防災グッズに加えるべき「三種の神器」は、(1)ウェットティッシュ/アルコール手指消毒薬、(2)マスク、(3)マウスウォッシュ、の3つであると発表した。

東日本大震災後、どのように感染症が広まったか

 2011年3月11日に発生した東日本大震災では、巨大な地震と津波が起こり、たくさんの人たちが避難生活を送ることになった。避難者はピーク時で45万人以上、震災発生2週間後でも25万人という人数だったという。

 街がヘドロで覆われるなど衛生環境の悪化に加え、水や電気といったライフラインが断絶。避難所の生活では、さまざまな原因による感染症が発症した。下図は、東北大学病院に震災関連の症状で入院した患者の推移をまとめたものだが、震災発生後1週間までは外傷が多く、2週目以降は感染症が多かったことが分かる。

東北大学病院に震災関連の症状で入院した患者の数。青が外傷、紫が感染症、クリーム色がその他(提供:東北大学病院)

 GHCのメンバーでもある東北大学の賀来満夫教授のチームでは、災害発生後に大学病院での治療支援に当たるとともに、感染症対策の支援を行った。その結果、感染症は大きく「環境から」「ヒトから」「自分から」の3つに分けられるという。

環境から発症する感染症

 津波や地震によるがれきやゴミ、また汚染された土や水が発生することにより、環境に生息する病原体による感染症が引き起こされる。

 例えば、破傷風。破傷風菌は土の中に生息するが、けがをしたときに傷口から破傷風菌が入り、毒素を産出することで発症する。進行すると筋肉のマヒや強いけいれん、呼吸困難などを引き起こすこともあるため注意が必要だ。宮城県では、2010年の1年間で3件しかなかった破傷風が、東日本大震災後は1カ月で7件発生したという。

 また、レジオネラ肺炎は、河川や土壌に生息する菌を吸いこむことで発生する。一般に使用される抗生物質が効かないが、震災1週間後、宮城県・岩手県合わせて4件発生した。

ヒトから発症する感染症

 避難所では多くの人が狭い場所で共同生活を送るため、インフルエンザやノロウイルス、はしかなど伝搬性の高い感染症が起こりやすくなる。東日本大震災でも、複数の避難所で集団感染が発生していた。

 ヒトからヒトへの感染を防ぐには、症状がある人を個室に収容するほか、マスクの着用や手洗いを行うといった基本的な対策が必要になる。水がなく手洗いができない場合は、ウェットティッシュや手指消毒用のアルコールを使うなどが効果的だ。

自分から発生する感染症

 東日本大震災の避難所では、食べ物や水の配給が滞ることによる栄養状態の悪化、寒さによる体力低下、口腔(こうくう)ケアができないことによる免疫機能低下や嚥下(えんげ)障害が起き、以下のような感染が発生していた。

 誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液についた菌が誤って肺に入ることで起こる。震災時には口をすすぐこともできなかったため、口腔(こうくう)内が不衛生な状態が続いたことによる発症が見られた。水がなくても使用できるマウスウォッシュや、丁寧なうがいを心がけることが予防につながる。

 また、体力や免疫力が低下したところで風邪をこじらせて肺炎が発生したり、膀胱炎などの尿路感染症が起きたりというケースも多かった。抵抗力の弱い子どもや高齢者には、周りの人たちが注意喚起することが必要になる。

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