どんな流れで進めればいいの? ビジネスノベルの書き方とはビジネスノベル新世紀(2/5 ページ)

» 2012年09月07日 08時00分 公開
[渡辺聡,Business Media 誠]

(1)取り上げたいテーマを1つ選ぶ

 今回のコンテストのように3000字が目安となると、長くてややこしい話は書けません。小さな1つのテーマを取り上げて、場面切り替えもなし、という作り方が基本となります。もちろんできるのであれば、場面切り替えを入れたり複数テーマを織り交ぜたりしても問題はありませんが、今回はサンプル作品を例示するのが目標なのでシンプルな形でいきます。

 ストーリー重視でない、知識伝達型のビジネスノベルでは(この分類については連載第3回の冒頭で紹介した(2)の説明を参照ください)、ノウハウやツールを使って問題解決を図っていく、という流れが必要なため、突然社長になったとか会社が危ないとか、危機的場面から話が始まるケースがよくあります。危機的場面を上手く解決する、という展開は物語としても分かりやすいカタルシス構造なので、読者の共感も得やすい手法です。

 ですが、ショートショートではそこまでややこしい素材を選ぶ必要はありません。もっと単純に「あ、なるほどね」と思える一場面をコンパクトに描いてまとめれば十分です。そもそも、それ以上入れられる文字数ではありません。仕事でちょっと気が付いたこと、通勤途中で見かけて面白かったことなど、自分の身の回りで「これ使えるかな?」というくらいのもので十分です。また、ノウハウ本やビジネス知識本を作るのでもないので、万人がひれ伏すようなビジネスメソッドを披露する必要もありません。

 連載第2回の締めで、「ビジネスライトノベルはやや私小説的な傾向を持っている」という話をしました。歴史上のできごとや特殊な事件ではなく、作者が直接に経験したことをテーマにした小説は私小説と呼ばれます。最近のビジネスノベル、特にビジネスライトノベルは、身近な日常のお仕事を素材にした“ビジネスライト私小説”と言えるのかもしれません。

 社会人なら、特殊な立場の人以外は、日中に何がしかの仕事をしていると思います。学生でもアルバイトなどで働いて、お金を受け取ったたことがある方は多いでしょう。お金を稼いでいなくて、何がしかの組織活動に首を突っ込んでいるという人も多いはずです。サークルや部活ものはそのままでは題材にしづらいですが、上手く組織運営の話とセットにすると『もしドラ』のような作品が生み出せるのはご存じの通りです。

 生活の少なからずの時間を仕事が占めているとなれば、普段身の回りで起きていることを素直に切り出すだけで、それはビジネスノベル的になっていると言えるでしょう。

 例えば、「電車の乗り換えで、実はこんな抜け道裏ルートがあった」「祝日のオフィス街にこっそりある穴場」といった、昼休みに話題にする話でも素材になりえます。あるいは、新製品についての感想情報を上手くまとめる、といったことでもいけるでしょう。ちょっとブログを書いたり、Facebookなどで友人に話すネタ、休み時間に「そういえば」と口にする程度の身近なものが入り口です。

 また、業界や世代によって、仕事の風景というのは随分変わるものです。自分にとって当たり前と思っていることも、立場や会社、業界が変わると新鮮で面白いといったケースは珍しくありません。例えば、アルファベットの略語や、駅名地名の略語が特定会社の隠語になっているということはよくあります。そして、同じフレーズでも、業界によって指している会社が異なっていて、一瞬会話が混乱するという場面にはたまに出会います。

 本稿では筆者発の世間話を取り扱っても仕方がないのと、自分の経験に依存して書くのではないやり方をしてみましょうというところで、Business Media 誠の記事から素材を探してみましょう。「そういえばこんな記事読んだのだけれど」「これ面白いよ!」というやりとりはソーシャルサービスのあちこちで日夜展開されています。この会話を小説形式に仕立て上げましょうということです。

 少し前の記事ですが「寿退社を希望する女性は7.8%――理想は働きたい、でも」という記事がありました。女性の葛藤や社会背景、パートナーの男性と議論したり喧嘩したり仲直りしたりというドラマ的場面がいかにもありそうです。うまくストーリーにできそうな気配がするので、この記事を素材にしてみましょう。

 いきなり場面のイメージまでは浮かばなくても、特定のネタや素材を選んだ際、「この話を○○さんに話せば、きっとこんな反応が返ってくるに違いない」という顔とやりとりがいくつか浮かぶと思います。この“ありそうな展開パターン”は、ストーリーの粗筋やキャラクター造形を練っていくための大事なヒントとなります。

 また、身の回りの友人がビジネスや日々のニュースにどのような反応をしているか、議論をしているかを見るだけでも、題材と粗筋のヒントは転がっているはずです(そのままコピペしてはダメですが……)。「なるほど、そうか」「へー、そうなんだ」といったやりとりがあれば、それは読み手が新しい理解や発見を得るだろう瞬間そのものです。なぜその理解を得たのか、何になるほど感を感じたのかを振り返れば、そこにきっと良い物語のヒントが隠されているはずです。

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