5年ぶりに制作分数が増加、レポートから見るアニメ業界の現状アニメビジネスの今(3/5 ページ)

» 2012年09月25日 08時00分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

「アニメ業界売上(狭義のアニメ市場)」と、「アニメ産業売上(広義のアニメ市場)」

 アニメ産業レポートでは「アニメ業界売上」ともう1つ、流通市場も含めた「アニメ産業売上」も算出している。それは、過去のアニメ市場の統計において、しばしば業界売上とユーザー売上の混在が見られたためである。例えば、テレビアニメ、劇場アニメ、ビデオパッケージなど、実際にアニメを製作・制作している企業と、それをユーザーに届けている企業(放映、興業、販売など)では当然売り上げが異なってくる。

 そこで、この2つの市場を明確に定義し、アニメ業界や流通が持つ付加価値をとらえるために導入したのが「アニメ業界市場(狭義のアニメ市場)」と、「アニメ産業市場(広義のアニメ市場)」である。すでに紹介した「アニメ業界売上(狭義のアニメ市場)」がアニメ製作・制作企業の売り上げであり、これから紹介する「アニメ産業売上(広義のアニメ市場)」は流通も含んだアニメ産業全体の売り上げである。具体的にどのように異なっているのか、次表に売上項目ごとの定義を示してみたので参考にしてほしい。

アニメ業界売上とアニメ産業売上の定義(「アニメ産業レポート2012」より)

  項目 業界売上(市場) 産業売上(市場)
1 TV 制作費と放映権料 番組販売売上
2 映画 制作費と上映分配 興行収入
3 ビデオ OVA制作費と原盤等ビデオにまつわる権利収入 パッケージ販売
4 配信 ライセンス収入 配信売上
5 商品化 ライセンス収入、広告・販促・イベント等収入 商品化売上
6 音楽 原盤、音楽出版等売上 音楽商品売上
7 海外 上映、放映、ビデオ、商品化等 海外での市場売上
8 遊興 パチンコ・パチスロ制作費 遊戯台等の売上

アニメ産業売上は前年比0.9%増

 流通も含む2011年のアニメ産業売上は1兆3393億円で、前年比約1%増とわずかながらも伸びを示した。業界売上で前年比で伸びたのは制作分数増加に伴うテレビ、遊興といったところだったが、産業売上においては特に遊興系の伸びが目立った。このジャンルはまだデータが少ないため実態が十分には把握できないが、かなりのレベルで売り上げを伸ばしているのは事実だ。

 すでにアニメキャラが遊興器機のテーマとなるのは当たり前となっており、これからは一歩進んで遊興用のオリジナルキャラの展開が増えることも考えられる。いずれにせよ20兆円の市場規模を誇る遊興産業の持つインパクトが次第に明らかになりつつある。

アニメ産業売上推移(単位:億円、「アニメ産業レポート2012」より)

 アニメ業界売上1581億円に対し、アニメ産業売上は1兆3393億円。これが何を意味するかと言えば、ビジネス的に見た日本のアニメ業界の規模は小さいものの、その流通が持つ付加価値、経済波及効果が大きいということである。この両者の関係はディズニーにおけるアニメーションの位置付けに似ている。

 ディズニーのビジネスモデルはアニメーションや映画でクリエイティブし、それを配給、ビデオパッケージ、放送などで流通させ、さらに商品化(ライセンス)、ゲーム、テーマパークのアトラクションといったものとすることにある。そのクリエイティブの中核にあるのがアニメーションである。

 ディズニーの場合、ディズニーアニメーションスタジオ、ピクサーの2つがその製作を担当しているが、その部門であるスタジオ・エンタテインメントの売り上げはディズニー全体の15.5%に当たる635億ドル(5080億円)に過ぎない。しかも、これには実写の映像や配給といった事業も含まれているのでアニメーション関連の売り上げはさらに少なくなる。

 しかし、ここで生み出されたものが劇場公開されてビデオパッケージとなり、その後ディズニーチャンネルや一般の放送局で放映される。さらに作品のキャラクターは商品化(ライセンス)され、最後にテーマパークのアトラクションとなる。ディズニーが持っている機能、「スタジオ・エンタテインメント(配給)」「メディア・ネットワーク」「コンシューマー・プロダクツ」「パーク&リゾート」はクリエイティブされた作品を流通させ価値を最大化するためのものであり、アニメーション(や一部実写映画)を核としてフランチャイズを築いている構造である。そういう意味で、アニメ業界とアニメ産業も同様の構造を持っているのである。

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