もんじゅ元所長“ミスタープルトニウム”が語る原発推進論(3/4 ページ)

» 2012年11月15日 00時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

ウランがない日本だからこそ高速増殖炉が必要

――2007年以降、地震によって5つの原子力発電所がダメージを受けています。こんなに地震がひんぱんに起こるような国では、原子力発電所は危険過ぎると言ってもいいのではないでしょうか。

菊池 5つというのは具体的にはどれですか?

――2007年の新潟県中越沖地震における柏崎刈羽、2011年の東日本大震災における東海第二、福島第一、福島第二、女川です。

菊池 ご指摘は分かりました。しかし私の見解ですが、その5つは地震ではやられてはいません。例えば、一番有名な最近の例では柏崎刈羽ですが、私も地震の後にすぐに行って全部見せていただきましたが、原子炉本体はまったくびくともしておらず、ゆがんでいませんでした。

 付属施設のところでデコボコが出たりということはありましたが、原子力発電所本体は女川も東海も、地震ということについてはまったく問題ありませんでした。

――柏崎刈羽では放射性漏れがあったと言われています。また、福島第一は(国際原子力事象評価尺度で当初)レベル4の事故で(その後レベル7に引き上げ)、制御するために数日間かかったと言われています。今、原子炉に地震の直接の影響はないとおっしゃいましたが、当時も似たようなことをおっしゃっていて、我々外部からはそれを確認する手段も情報もありません。今、菊池さんが守ろうとしている業界は今まで数十年間いろんなものを隠してきたりしたので、信ぴょう性について疑問を感じるところがあります。

菊池 情報公開の仕方については、いろいろ工夫がいるのだろうと思います。

 ニューヨークの9.11以降、テロに対する警備が厳しくなって、情報公開について非常に制約があるというのが現在の状況です。私はもんじゅの所長をやっていたのですが、それまでは10万人以上の住民に中まで入ってもらって、全部見てもらったんですね。そういう形で公開していくのが一番良い方法だと思いますし、本当は原子力発電所の中にいつでも入れるような状況を作ることがこれからの課題ではないかと私は思っています。一方、テロ対策などで機動隊が常駐する状況でもあるので、そことの兼ね合いが非常に大切になってくると思います。

 補足ですが、地元の女性職員がたくさんいます。その方々が何の心配もなくバスに乗って発電所に通勤する姿を見て、住民の方々は非常に安心すると言うんですね。普通に生活しているということが何よりの安心だろうと思います。やはり発電所を含めた原子力施設と一般の方との壁を低くしていくことが、これから必要だろうと思います。そうすれば正しい理解が進むと考えています。

――来世紀の技術を使えば、放射性廃棄物から有用な金属を取り出せるとおっしゃいました。しかし、その放射性廃棄物が反対する人たちの大きな理由の1つになっていると思います。その来世紀の技術というのはいつごろ実用化できて、どういう金属が取り出せるのか、もう少し具体的におっしゃっていただけますか。

菊池 今日は具体的にそういうことを述べる会ではないのでデータを持ってこなかったのですが、大学や研究所のレベルでは研究が進められています。

 (ウランが)核分裂すると、100種類以上の元素が出てきます。その中に現在レアメタルと言われているようなものも放射能を帯びているだけで、存在するわけです。放射能が減衰すれば普通の元素になるので、そういったものを分離していこうということです。

 今は放射性廃棄物を再処理してプルトニウムとウランを取り出していますが、そのほかの有用な元素のグループに着目して、それだけを分離しようという研究が行われていると聞いている、というかそういった発表会などを我々が主催しています。

――もんじゅは30年前から計画が進んでいますが、いまだに成果を出していません。フランスでも同じように高速増殖炉を作っていますが、まだ成功していないと思います。ドイツも作ったのですが、あきらめて今停止している状況です。来世紀の技術というような話もあったのですが、期待感だけで動いているのではないでしょうか。

菊池 ご指摘は分かりますが、例えば核融合にしても、それはもっと先の話になるわけですが、科学技術というものは夢を追うところから始まると思います。ドイツはカールスルーエで(高速増殖炉の)KNKの実験をしていて、私も何度も訪問しました。

 フランスの(高速増殖炉の)スーパーフェニックスはちょっと大きいのを作り過ぎたことと連合体でやったことが良くなかったのですが、もう1つはアレヴァというか、(フランス原子力庁子会社の)コジェマが当面のウランを確保したということですね。カーター大統領の時にINFCE(国際核燃料サイクル評価)が始まったのですが、その場合も高速増殖炉を入れる上では、ウラン供給でどういう状況が続くかというところが最大のポイントになっていました。それでフランスの場合にはウランが当面確保できるということで、少しスローダウンしたということだと思います。

 日本の場合にはウランがないんです。ですから、日本はやはり一番先にやらなければならない環境にあると考えています。

――日本の今後20年間の原子力発電の見通し、そして日本の原子力産業体が、もし国内需要がまったく期待できないことになったらどうなると考えているか教えてください。

菊池 日本の場合には少なくともまず今ある50数基をきっちり動かすということです。これはエネルギー構造上、どうしても必要になってくるだろうと思います。しかし、その中で比較的古いものについては新しいものに、福島を乗り越えたより安全性の高いものに置き換えていくということが、非常に重要なポイントになってくるのではないかと思います。

 これまでの私の経験からしても、もう少し早く国民のみなさんというか住民のみなさんの理解が得られれば、早く止めて新しいものに置き換えたい原子炉があったと思います。それを促進する方が結果的には技術も向上するし、コストも安くなるし、そういう理解を深めていく必要があると思います。

 ですから、少なくとも3分の1のレベル(東日本大震災以前の原子力発電が総発電量に占めていた割合)というのは今後は必要になってくるだろうと私は思っているので、より良い技術のものにしていくことが最大のポイントになってくるのではないでしょうか。そうすることで、これから輸出などを考えた時、より良い最先端のものを輸出していける技術開発に向かえると思います。

――プルサーマルでMOX燃料を使用することについて、本当に将来的に実現する可能性はあると思いますか。

菊池 MOX燃料については、技術的な課題より、アクセプタンス(受け入れられるかどうか)が問題になると思います。

 というのは現在の普通の軽水炉でも燃料を2〜3年燃やすのですが、その最後の状態ではウランよりプルトニウムの方がエネルギーを出しています。(MOX燃料は)最初から少しプルトニウムを混ぜるだけの話なので、欧州ではプルサーマルという特殊な言葉で差別されることはありません。プルサーマルというのは私が若いころに付けた和製英語で、英語にはありません。

――もんじゅはこのまま研究を続けて、いつどのような形で実現するのでしょうか。現在はどのように燃料を供給するかというより、むしろその結果出てしまう使用済み燃料や高レベル廃棄物、それから最終処分場の問題がかなり心配な状況です。夢の実現を待っている間に、そちらの方が破たんしてしまうのではないでしょうか。

菊池 もんじゅについては5年間ほど研究して、卒業論文というか、その成果をまとめるのがまず大事で、その成果に基づいて、次にどうするかという議論をしようという方向だったんですね。今まではどちらかというと、真っ直ぐの高速道路があって、渋滞に巻き込まれようが真っ直ぐ行ける状況だったのですが、次のステップをはっきりさせるためにも、まず5年間で成果を出すことが第一だろうと思います。その成果をみなさんに問うことで、次のステップをどうするか決めましょうということです。

 それから使用済み核燃料を再処理した後の高レベル廃棄物をどう処分するかということですが、使用済み燃料については「とてつもなくたくさん出てきて置き場に困る」とみなさんお考えだと思うのですが、そんなことはありません。中間貯蔵が十分できれば、使用済み燃料の貯蔵は技術的には可能です。容器に入れて保管することが十分可能です。

 もちろん再処理して最終的にはガラス固化体として地層深く埋めることも技術的には可能なのですが、先ほど申し上げた通り、私はゴミとして扱うのではなく、将来の資源としてどう活用するかという可能性を残す方がいいだろうと思います。使用済み燃料も高レベル廃棄物も、完全に埋めてしまうのではなく、取り出せるようにしておくのは世界的な潮流になってきているのではないかと思います。

 追加ですが、日本だけではなく、韓国でも25基ほど原子力発電所がありますし、台湾や中国でも始まっています。特に韓国と日本では、韓米原子力協定、日米原子力協定という中での原子力の活動が行われているわけです。ですから、両国の協定のもとでの原子力活動であるわけですし、その改定が、韓米原子力協定は2014年、日米原子力協定は2018年に改定の時期を迎えているので、この傘が原子力活動の中で非常に強い要素になっています。

 核物質には国籍が付いているんですね。そこで米国の国籍になっている場合には、協定の協議事項になるわけです。

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