“遊技機”から“メディア”へ、『ぱちんこAKB48』が示した可能性(4/5 ページ)

» 2012年12月19日 12時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

版権料は数百万円から10億円以上まで

藤田 版権料は「たくさんもらえるんじゃないか」と想像する人もいるかもしれないですが、ピン切りです。先ほど紹介した『冬のソナタ』は、非常に高い版権料が支払われたと言われています。版権料の詳細は諸説あるのですが、パチンコになることはまずないだろうというコンテンツを使ったという意味では画期的でした。かつ、『冬のソナタ』ではパチンコ、パチスロ用の撮りおろし映像も新たに作ってもらえるところまでいきました。その映像を作るためのお金もかかったため、版権料は10億円以上だったとは言われています。

 1つの版権料で10億円を超えるものもありますが、中には非常に安いものもあります。私の知り合いが言っていた中でいうと、一番版権料が低かったのはお笑い芸人の江頭2:50さんで、数百万円もいかなかったくらいと言っていました。

 そのように版権料はピン切りなのですが、版権料の課金方式は大きく2つあります。例えば、ディズニーのキャラクターやキティちゃんを使う場合、1つ売れたらその売り上げの○%くださいという従量制が一般的です。もう1つのやり方としては、どれだけ売れるかは別として、ある版権を使った台を作るので○万円払いますという買い取り制があります。

 実際には買い取り制より従量制の方が多いです。ただ、ヒットするかしないかには、メーカー側の努力によるものも大きいです。オリジナルのキャラクターの強さは当然大事なのですが、やはりそれ以上にメーカー側が本気になって作るかというのが重要になります。数千台しか売れない機種の多くは、メーカーが本気でないのも多いです。

 そういうリスクがあるので、権利を持っている人たちは「最低限これだけの金額をください」というミニマムギャランティー契約をすることがあります。例えば、100台しか売れなくても1万台分の版権料をもらうということで、1台当たり2000円なら2000万円は最低でももらえますね。そして、5万台を超えたら1台当たり1500円でいいです、10万台を超えたら1台当たり1000円でいいですという契約方式をとることが多くあります。

 ミニマムギャランティがあまりにも安すぎると意味がないということで、今は1000万円以下だと版権者も出したがらないです。メーカー側としても、売れるものと売れないものがあるので、高い金額で権利を買ってもどうかなということがあります。マンガを出している出版社が多くの権利を持っているのですが、各メーカーがこぞって買いにいったため、非常に高くなった時期もありました。ただ、高く権利を買っても、売れる機種が作れなかったということもあって、最近は下落傾向にあります。今はミニマムギャランティとしては数千万円台が多いです。

 そのように金額はさまざまあるのですが、権利処理は大変だと言われています。そして関わる人が多くなると、さらに大変になります。以前、お笑い芸人が20人くらい出ていた機種がありました。しかし、全体として権利を持っているプロダクションはOKを出してくれたのですが、お笑い芸人の1人がOKを出さなかったんですね。メインではない人だったのでそこまで問題にはならなかったのですが、そのためにほぼできあがったものの中から、最後にその1人分だけ画像を消して作り直しました。

 最近多いのは、音楽が使えると思っていたのが使えなかったというようなものです。また、結構大変なのが声優さんです。オリジナルのマンガがアニメになる時、例えば『ルパン三世』だったら○○というキャラクターは○○さんの声だとみなさん認識しています。そのため、パチンコにした時に違う声優を使ったら、「それは困るよ。○○のイメージは○○さんの声なんだから、○○さんを使ってくれ」となったりします。しかし今、有名声優さんの声を録らせてほしいというと、結構高い金額が発生してしまいます。

 そこでほかの声優を使ったら、最後に版権者から「その声優さんじゃ困る」とNGが出たりすることもあります。メーカーの人は大変ですよね。全部作り終わってOKと思ったら、「えっ!」ということで、それから作り直しに3カ月かかることもあります。

 また、「こういう権利を持っています!」と売り込んでくるブローカーもいます。怖いのは「何でもできます!」と言って持ち込まれた版権でパチンコを作ろうとすると、「あ、すみません。これは使えません」「これ確認とらないといけません」と、何も許可をとれていないようなことがよくあります。契約書があったりもするのですが、詳しく聞いてみるとほとんどダメだったということがよくあるので、これはメーカー泣かせですね。

 海外の映画やドラマ、歌手などでは、特に米国系だと分厚い契約書になります。バインダー1冊もしくはそれ以上にもなると言われています。ただ、契約を結ぶまでは非常に大変なのですが、契約した後は契約書にのっとってやっていれば四の五の言われないので意外といいという落差はあります。

 このような権利処理の苦労話も多いのですが、権利がとれた後も大変です。映像化するだけでなく、音楽を流したり、電飾をビカビカ光らせたり、いろんなものを動かしたりと複合化してきたので、開発期間が長くなり、同時にお金もかかるようになっています。昔は半年あれば1つの機種ができていたのですが、今は1年半〜2年、途中でリテイクが発生すると3年くらいかかったりするのが当たり前です。

 ある人気グラビア系グループの機種が出たことがあります。(開発に時間がかかったので)その機種が世の中に出た時、グループ名はそのままだったのですが、メンバーは全員違う人になっていました。プロモーションに現役のメンバーが来たのですが、映像は旧メンバーばかりだったという笑えないような話も現実にあります。このように開発期間が長くなっているので、それくらい先を見た開発を行っていかないと、リスクが大きくなってきています。

 映像以外のいろんなものも作らないといけないので、開発体制も大きくなり、同時に複雑化してきています。映画を作る時のように、開発プロデューサーという役割が必要になってきています。当然、予算管理も必要です。また、ゲームを開発する時のようにパチンコ機種のゲーム要素を作り込んでいくプランナー、映像や音楽、電飾の開発など、多くの役割があります。

 これだけたくさんのものが必要になってきているので、今、パチンコやパチスロを開発しているメーカーはたくさんありますが、1社ですべてを作っているところはそんなに多くありません。また、1社ですべてを作れる仕組みがあったとしても、実際にそうしているのは同時に何機種も作っているうちの一部の機種だけになっています。今の機種の多くは、パチンコ業界以外の人たちが作っているようなものです。特に最近高度化されてきている映像関係は、映像を専門に作っている企業が手掛けていることが多くあります。名前が知られているような企業は、だいたい関係しています。

 こうした結果、開発費用は数億円単位になります。特に大きいのは映像関係の費用と、金型関係の費用です。映像関係の費用はピン切りです。「これはたくさん売れる」ということで力を入れられている機種は、映像の尺が長く、ひとつひとつの内容も濃いものが作られます。ただ、「売れても1万台くらいかな」というものであれば、そんなに予算はとれません。その場合は、大事なところは力を入れて作りますが、それ以外は安く作れる2Dアニメをうまく使って、あまり見劣りしないものを作ろうという形でやります。このあたりはゲーム系の映像制作会社が得意なので、よく参加しています。

 金型関係では、金型を作ってプラスチックの部品を作るのですが、部品は1個作っても、1万個作っても、値段はあまり変わりません。金型を普通の機種だと20種類くらい、多いものだと50種類くらい作るのですが、そうなると最低でも1億円はかかるのが現実です。本気で作るようなものだと、開発予算は10億円くらいになると言われています。

 ちなみに後で紹介する『ぱちんこAKB48』は、動画だけでも60分を超えていて、短編映画と同じくらいの尺になっています。音楽も12曲新曲を入れているのですが、それも50分ほどあります。さらにスチール写真も約700枚ということで、本気で開発するものとそうでないものとの差がかなり出てきています。

 今までは有名なキャラクターの版権を買ってきて使うのが普通でしたが、最近は使うということから一緒に作るというものに変わってきています。ただ、まだまだ主流ではなくて、こういうのが始まりかけたかなというところです。

 今、パチンコやパチスロ発のキャラクターの版権が出てきています。パチンコやパチスロの『海物語』という機種に出てきたマリンちゃんやサムくんといったキャラクターが、アニメなどにも出てきています。同じくパチンコ発の『戦国乙女』もマンガやアニメになっており、『快盗天使ツインエンジェル』はゲームも出ています。

『絶対衝激 〜Platonic Heart〜』

 コラボ型では10社が関わった『絶対衝激 〜Platonic Heart〜』というものがあります。これはメインキャラクターの設定と世界観を初めに決めて、それをマンガやアニメ、ゲーム、フィギュア、パチンコなどに展開していくものでした。正直うまくいったとは言えないのですが、映画会社の松竹とパチスロ会社(アリストクラートテクノロジーズ)がかなり力を注いで、どうにか回った新しい試みです。

 メディアミックスへの参加ということでは、アニメなどの製作委員会にパチンコメーカーが入って支援しています。また、コミック誌を独自で発刊したり、マンガ月刊誌や週刊誌のあるページを買い切って、独自のコンテンツを作ったりということもやっています。

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