国内観光ビジネスが“脱中国”するにはどうしたらいい?窪田順生の時事日想(1/2 ページ)

» 2013年02月12日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

窪田順生氏のプロフィール:

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。


 企業の「脱中国」が進んでいる、とマスコミがこぞって報じている。

 かつて「チャイナリスク」という言葉の意味をろくに説明せず、中国進出すればみんながハッピーなんて調子で煽りに煽った結果、数多の日本企業を技術流出やらの苦境に立たせた犯人が何を今さらとあきれてしまうが、なにはともあれ「脱中国」の動きに拍車をかけている。

 だが、そんな中でなかなか「脱中国」が進まない業界がある。

 観光ビジネスだ。

 製造ビジネスでは人件費の折り合いがつけば、工場などの拠点を中国から移せばいいだけの話だが、観光の場合、こちらは動けない。その点、そこらじゅうにタンを吐こうが、マナーが悪かろうが、「爆買」という言葉に象徴されるように湯水のごとくカネを使ってくれる年間100万人の「客」がありがたい。

 だから朝日新聞には、中国人留学生を活用して、口コミで日本の素晴らしさを宣伝せよ、なんて意見も載るし、東北の観光関係者はわざわざ中国まで出向いて、どうぞ来て下さいな、なんて誘致PRをする。

 今も中国の旧正月に当たる「春節」なので、各地では減少傾向にある中国観光客を何とか呼び戻そうと各地でさまざまな企画やイベントが仕掛けられるなど涙ぐましい努力が続けられている。

 もはや「中毒」ともいうべきような依存っぷりだが、実はこれも「チャイナリスク」同様にマスコミが被害拡大に一役買っている。

 このコーナーでも以前触れたように、日本のマスコミには「カネが循環する」という発想がない。だから国債とは借金のことだとしか思わないし、消費税を上げれば税収が増える、と信じて疑わない。

 こういうシンプルな思考の人たちが、中国人観光客が減ったと聞くと、「国内産業を考えると大打撃だから中国様の機嫌を損ねるな」みたいなことしか考えられない。「お客様は神様です」と三波春夫も言ったじゃないかと。

 確かに、短期的にはそれもある。だが、日本に来なくなった中国人がどこへ行ったのか、というところまで思いをめぐらせれば、まったく異なる景色が見えてくる。

 例えば、尖閣諸島をめぐる対立が報じられてから、中国人観光客がどかんと増えている国がある。タイだ。

 先月、タイ観光・スポーツ省が発表したデータによると昨年、タイを訪れた観光客は270万人に達したという。それまで中国人に人気だった日本やフィリピンは近年、人民解放軍が国境をこえて「オレの家だ」なんて言いがかりをつけていることで、「反中」の意識も高まっている。その点、タイではそこまで嫌われていないので居心地がいい。それもあってか、最近ではタイを舞台にした映画が中国で大ヒットし、この春節でもわんさかと中国人が押し掛けている。

 つまり、これまで日本でじゃんじゃんカネを落としていた中国の富裕層たちが、タイへとシフトしているというわけだ。

 じゃあなおさら、「バンコクよりも東京へおいでませ」と国をあげて観光PRして、日中関係の改善をというのがマスコミの理屈だが、実はそれよりもはるかにいい手がある。

 タイからの観光客を呼び込むことに国をあげて力を注ぐのだ。

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