ロビー活動とは「ロビーでお願いをする」こと? メディアの“無知”は罪窪田順生の時事日想(1/3 ページ)

» 2013年02月19日 08時08分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

窪田順生氏のプロフィール:

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。


 オリンピックの中核競技からレスリングが除外された日の夕方、ニュースを見ていたら日本レスリング協会・高田裕司専務理事がスタジオに招かれていた。

 「敗因」について高田理事が「ロビー活動が足りなかった」みたいなことを言うと、キャスターがマジメな顔でこんな相づちをうっていた。

 「それはつまりロビーでお願いをしなかったということですね」

 ちょっとびっくりした。いやしくも日本を代表するテレビ局で、「実力派キャスター」なんていわれている人にしては、ずいぶん大味というか、ザックリとしているというか……「そうですね」と答えた高田理事もちょっと困った顔をしているように見えた。

 確かに、タバコ好きの米大統領がホワイトハウスを抜け出して、近くのホテルの「ロビー」でプカプカやっていたところでみんなが陳情をしたことがロビイング(Lobbying)の「語源」とされているが、それはもう200年以上前のこと。現在のロビー活動はそんな牧歌的なものではない。

 自分たちが有利となる決定を引き出すためにはありとあらゆる手をつかう。ターゲットとなる要人に飲ませ食わせは当たり前で、ときには“実弾”も飛び交うし、メディアを使って世論操作を仕掛けることもある。つまり、「ロビーでお願い」なんて甘っちょろい話が通用しない世界なのだ。

 それはオリンピックも然りである。米国の招致委員が、湯水のごとく賄賂をバラまいた「ソルトレイク・スキャンダル」が有名だが、日本も負けていない。長野冬季五輪ではいかがわしいエージェントを使って、じゃんじゃんロビー活動をしたのだ。IOC(国際オリンピック委員会)のサマランチ会長(当時)を高級ホテルに招いて、芸者でもてなして土産に無形文化財の刀匠(刀を鍛えつくる職人)がつくった日本刀を渡した。さらに当時、会長が建設にご執心だった「五輪博物館」の費用を、日本企業に23億円も払わせた。

 あの五輪は、そういう涙ぐましいロビー活動が功を奏したものだった。

いまのロビー活動は牧歌的なものではない。自分たちが有利となる決定を引き出すためにはありとあらゆる手をつかう(写真と本文は関係ありません)
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