地震対策として注目されている、「制震」ってナニ?(2/3 ページ)

» 2013年03月21日 00時00分 公開
[吉村哲樹,Business Media 誠]

住宅の地震対策は「余震への備え」が肝

住宅用制震システムの代表的な製品、住友ゴムの「MIRAIE(ミライエ)」

 先ほど、制震は「揺れのエネルギーを熱エネルギーに変換する」ことで建物の揺れを軽減する方式だと説明した。これをもう少し分かりやすく説明すれば、本来なら建物に直接ダメージを与えてしまう揺れを、ゴムやダンパーなどによる仕掛けに「逃して、発散させてしまう」ということだ。

 こうして文章で説明するより、実物イメージを見ていだたいたほうがイメージがつかみやすいだろう。右の写真は、減衰ゴムを用いた住宅用制震システムだ。

 このように、住宅1階部分の壁の中に、フレーム構造のダンパー装置を設置する。そしてこの装置の上部には、減衰ゴムを用いて震動エネルギーを瞬時に熱エネルギーに変換して吸収する特殊な機構が組み込まれている。この機構によって地震の揺れを吸収し、建物の変形を抑えるというわけだ。

 ちなみに、この製品では揺れを吸収する仕掛けの素材として減衰ゴムが採用されているが、このほかにも油圧ダンパーや摩擦ダンパーといった機構を採用した製品も存在する。ただいずれにせよ、基本的な原理は同じだ。

 ではなぜ今、この制震方式による地震対策が脚光を浴びているのか。これを理解するためのキーワードは、「余震」だ。今さら説明するまでもなく、大きな地震が発生した後には、中規模・小規模の余震が繰り返し襲ってくることがよく知られている。実は、地震による木造住宅の倒壊は、この余震によるものが少なくない。大規模な本震を耐えた建物が、余震であっさり倒壊するケースが意外にも多いという。

 たとえ本震で倒壊を免れたとしても、建物には大きなダメージが蓄積されている。その状態では、小規模な余震であっても致命的な「最後のトドメ」になりかねないのだ。耐震構造の弱点はここにある。耐震構造は、たとえ大きな揺れによる倒壊に一度は耐えたとしても、そこで建物の構造が受けたダメージが回復することはない。従って、余震が襲ってくる段階では、当初想定していた通りの耐震強度が発揮されるとは限らないのだ。

 一方の免震や制震では、地面から伝わる振動を吸収し、建物へのダメージを軽減することで、こうした耐震の弱点を補うことができる。ただし、免震の仕組みは大掛かりでコストが掛かる上、地盤や建物周辺の環境によっては設置できないという弱点もある。その点、制震はそうした制約が少なく、コストも比較的低く抑えられるため、近年急速に導入が進んでいるのだ。

 ただし、たとえ制震システムを組み込んだ住宅であっても、装置自体の耐久性が低く、地震のたびに効果が半減していってしまうようでは、やはり余震の繰り返しに耐えることはできない。従って、実際に制震システムの導入を検討する際には、特に震動を吸収するダンパー機構の耐久性に注目しながら、慎重に製品を選びたいところだ。また、たとえ優れた製品であっても、不適切な設置状態では効力を発揮しないことも忘れてはならない。

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