PS Vitaを『ソウル・サクリファイス』は“救済”できるか――稲船敬二氏インタビュー(4/4 ページ)

» 2013年03月13日 11時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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ゲーム専用機の未来は

――最後にゲーム業界全体をどう見ているかうかがわせてください。今、『パズル&ドラゴンズ(パズドラ)』に代表されるスマホのゲームが流行っている中、ゲーム専用機でそういうゲームとは違うゲームを作られているわけです。ゲーム業界全体が今、どういう状況にあって、これからどういう状況になると考えていますか。

稲船 ゲーム業界とひとくくりにしてしまってはいますが、中身が微妙に違うと思いますね。だから、本当の意味でのゲーム業界の未来と、今言っているゲーム業界の未来というのはまた違う方向に行くと思っています。

 今言っている広い範囲でのゲーム業界というところでいうと、いろんなものが選択肢として出てきて、切磋琢磨すればいいのではないかと思っていますが、その中で本当にユーザー目線で見て作られているものを期待しますね。ユーザー視点でずっと作ってきたというものが、今までの任天堂、マイクロソフト、SCEという流れだと思っているんです。当然ビジネス、金儲けでやっているのですが、作っている側も実はユーザーなんですよね。作っている側が面白いものを作りたいと思って作るものが、やっぱりユーザーに伝わりやすいと思うんです。

 でも、スマホのゲームを作っている側の一部、全部じゃないですよ。一部では、ユーザーにとって面白いものを作るという思想がないですよね。だから、ユーザーから金をとれるものということであったりとか、買うものという形の考え方だけで作ると、尻すぼみはしやすいんじゃないかと思います。だから、ユーザーが喜ぶものをどう提案できるかというところですね。

 パズドラに代表されるということなのでパズドラのことを言いますが、パズドラなんかはユーザーに喜ばれるものを提供できている珍しいスマホのゲームだと思いますね。だからガンホーの株価が上がるんじゃないですか(笑)。家庭用ゲームとスマホのゲームのハイブリッドができている会社ということで評価されていると思いますね。

ガンホーオンラインエンターテイメントの株価推移(出典:Yahoo!ファイナンス)

 だから今まで家庭用ゲームを制作してきた会社がそこをうまくやれればいいし、今、スマホだけで展開している会社ももっとゲーム性に対してお金をかけ始めることに最終的には落ち着くし、それができるところが生き残るんじゃないかと勝手に思っています。

――パズドラのようなゲームに全体的な流れも向かっていくと

稲船 そうですね。カードゲームばかりだったのが、パズドラという全然カードゲームじゃない方法で道を開いたというのは大きいと思います。

――ゲーム専用機の未来についてはどのようにお考えですか。

稲船 「スマホがこれだけ進化したらゲーム専用機はいらないんじゃないですか」と、よく言われます。でも、「何をおっしゃっているんですか」という気持ちが僕の中ではあります。極端に言うと、「交通機関として電車があるんだからクルマはいりませんよね」と言っているのと同じだと思うんです。

 もちろん電車があるし、バスも走っているので、究極を言えばいりませんよね。でも、なぜ自家用車を買うのかとか、なぜ必要なのかというところで、やっぱり違う感覚を持っているんです。電車もバスも自分で運転できないので、行きたいところに自分の都合で行けないですよね。そういうのと同じで、ゲーム専用機とスマホでは用途がまったく違います。

 よく技術屋さんが「こっちのCPUの方が処理能力がすごい」とか言うんです。知らないよと。それは「クルマより電車の方がパワーがあるよ」みたいな話をしているのと一緒なんです。そこじゃないよねと。そういうことじゃないという部分に対して、理解すべきなんです。

 スマホでは、スマホとしての用途の中にゲームが遊べるということがあるわけじゃないですか。ゲームをがっつり遊びたいという欲求は必ずあると僕は思うんです。その欲求の中で今の時間ならこれでいいよねというところが出てくるだけです。電車に乗って5分時間があるから本格RPGを始めようと思うわけないじゃないですか。本格RPGは家でやるけど、今はパズドラでいいやとなるわけです。

 でも、PSP以来、ゲーム業界は1時間未満で倒せるクエストをやって何かを得ようという形を提示してきたわけです。それをさらに僕らは時間を区切ってPS Vitaで『ソウル・サクリファイス』は5分でやれますよ、10分でやれますよというのを提示しています。暇つぶしの中にも醍醐味のあるゲームを提示できれば、それはかばんの中に入れておく価値を持つわけです。

 それを提案できていなかったから、ゲーム専用機とスマホを比べることになってしまう。作り方の問題なんです。お客さんは5分で遊べるつまらないスマホのゲームより、5分で遊べる濃い内容のPS Vitaのゲームを遊びたいんですよ。そういう作り方をしているので、ゲームの中身の進化によってゲーム専用機が生きると思っています。

 今までゲーム専用機のゲームが、ゲーム専用機用の設計をしていなかったんですね。なぜしていなかったかというとビジネス面だけで考えると、本格RPGの移植版を出すみたいな形にしてしまうわけです。そうすると設計が違うのに、その本格RPGのネームバリューだけで売ることになってきます。そうするとイマイチ売れないとなるのは当たり前ですよね。それなら『Angry Birds』の方がいいですよ。

――ほかに注目しているものはありますか。

稲船 注目しているのは、やっぱりソニーというブランドが復活するかですね。ゲーム業界に長くいる人間としては一番応援しないといけないし、ソニー本体含む頑張りをですね、僕たちの小さな力かもしれないけど力になりたいと思っているんです。本気で“救済”したいなと。“生贄”にするのではなく(笑)。

――ソニーに限らず、シャープなど日本の伝統的な家電企業が今、苦境にあえいでいますね。

稲船 家電と言えば日本だったので、家電業界に対してはすごくエールを送りたいし、頑張ってほしいという気持ちはありますね。サムスンだからダメというのではなくて、切磋琢磨しながらやってほしいなと。ソニーの場合はゲームというつながりがあるので身近に感じているのは確かですが、ほかのメーカーも使っている側としてすごくお世話になっているので頑張ってほしいですね。本当の意味で強くなるために、一緒にピンチを切り抜けていけたらと思います。

――今、株価が上がっていて、景気も上向きになっていると言われているのですが、ゲーム業界でもそういう雰囲気を感じたりしますか。

稲船 感じないですね(笑)。ゲーム業界はピンチはピンチですよね。でも、先ほども言ったようにピンチがチャンスだと思っているので、このピンチを切り抜けるための工夫みたいなところが必要なんじゃないですかね。ピンチにならないと工夫しないですからね。そういう意味では、今は逆にとてもチャンスだと感じています。



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