人々の生活を大きく変えたインターネットは、“ものを買う”という行為にも変化をもたらしてきた。店に足を運ばなければ買えなかったものが、今やWeb上のショッピングサイトを通じて買えるようになり、家にいながらにして日用品からファッションアイテム、各地の名産品までを手軽に手に入れられるようになった。
そんな“買い物”のスタイルをさらに変えようとしているのが、大画面で商品情報を確認でき、GPSを利用して店の場所を即座に検索できるスマートフォンだ。電車の中でWebを閲覧している時に欲しいものが見つかったら、その場で検索して売っている場所を調べ、途中下車して購入する――といったこともスマートフォンなら容易に行えるので、店舗側で来店につなげるための導線をきちんと用意しておけば、新たな顧客の開拓や売上の向上が見込める。
こうした「オンラインメディアを利用した実店舗への集客」(O2O:Online to Offline)は、「旬の商品情報をリアルタイムに伝える」「今だけ有効なお得情報をタイムリーに伝える」「今、店の近くにいる人に最適な情報を伝える」といった、これまでのリアル店舗では難しかったプロモーションを実現するものとして注目を集めており、通信キャリア(NTTドコモ、ソフトバンク)をはじめとする各社が相次いでソリューションを発表している。
こうした中、「時間や場所を選ばず商品を購入できるEコマース(オンライン)の便利さと、リアル店舗(オフライン)だからこそ味わえる買い物の楽しさ」という、“両者のいいとこどり”を狙うO2Oの実証実験を開始したのがKDDI。大日本印刷、三井物産、東急モールズデベロップメント、イッツ・コミュニケーションと組んでO2Oのサービス基盤を構築し、5月13日から6月27日まで検証を行う。
実証実験の舞台となるのは、東京ドーム1.8個分の敷地面積に100店舗のテナントが軒を連ねるオープン型のショッピングモール「グランベリーモール」。Wi-Fiの位置情報サービスとスマートフォンアプリを使って来店者と店舗をリアルタイムでつなぎ、「いつ来ても新しい情報に出会えて、発見する楽しみがある」環境作りを目指す。
グランベリーモールの実証実験では、モール内店舗の最新情報をリアルタイムで配信するアプリ「すなっぴん」(プル型情報配信サービス)と、モールにいるときに周辺店舗のセール情報やクーポン情報をプッシュ配信する「くーぴん」(プッシュ型情報配信サービス)の2つのスマートフォンアプリを提供。モールに行きたいと思わせる仕掛けと、モール内での新たな発見につながる仕掛けを用意した。
すなっぴんは、グランモールの店舗スタッフ自身がおすすめの商品やサービスをリアルタイムに発信するアプリ。入荷したばかりの製品やイチオシ製品、人気が高い製品などを写真で紹介するもので、“ショップ発の生きた情報を提供するメディア”という位置付けだ。利用者は、ファッション雑誌を見るような感覚でお気に入りの商品を探すことができ、気に入った商品についてはアプリを通じて販売店の詳細情報やクーポンを入手できる。欲しいものをお気に入りフォルダにまとめておけば、実際に買い物をする際にすぐ店の場所を確認できるほか、クーポンの取り出しも簡単だ。
くーぴんは、グランモール内の店舗がその時々のおすすめ情報をプッシュ配信するアプリ。モール内を歩いていると、その場所に応じたセール情報やクーポン情報がスマートフォンに飛び込んでくる――というイメージだ。この仕組みを利用することで店舗側は、紙メディアでは難しかった“その日だけのセール”や“この時間だけのクーポン”の配信が可能になる。来店者は、モールを回遊するだけで最新情報やお得情報が得られ、広大なモールの中で新たな店やサービスを発見するきっかけになるというわけだ。
今回の実証実験では、グランベリーモール内の4つのエリア単位で情報を配信しており、来店者が異なるエリアに移動するとモール内に設置したWi-Fiアクセスポイントがそれを検知して情報を送信する。特定の店舗に近づくとそれに応じて情報発信するような仕組みにはなっておらず、また、来店者の属性に最適化した情報の配信についても今後の課題としている。
今回の実証実験では、O2Oソリューションが購買行動にどんな影響を与えるのかを測ることも重視されている。すなっぴんに掲載された商品情報のページビュー、モール内の回遊状況、クーポンを利用したタイミングなどの行動データはクラウド上に蓄積され、どんな情報が購買に結びついているのか、最適な配信のタイミングはいつなのか――といった分析を行った上で店舗にフィードバックされる。店舗側はその情報を商品開発や仕入れに生かしたり、より顧客に強くアピールするコンテンツ作りに役立てたりできるという。
なお、今回開発したシステムの拡張や今後の販売計画は未定となっている。どのような形の商品訴求が来店を促すのか、どんなパラメーターがそろえば商品の情報を知った人が購買行動に至るのか――といった、実証実験で得られたデータをふまえて5社で検討する方針だ。
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