スマホによる効率化の波、小売り店舗にも――ソフトバンクグループ、O2Oに本腰SoftBank World 2012(1/2 ページ)

» 2012年07月30日 23時14分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo クレジットカード決済のシステムを手軽に導入できる「PayPal Here」

 イヤフォンジャックにカード読み取り機を差し込むだけで、スマートフォンがクレジットカードの決済端末に早変わり――。ソフトバンクは5月、小規模店舗でも手軽にクレジットカード決済システムを導入できる「PayPal Here」の提供に向け、米PayPalと合弁会社を設立した。

 この取り組みから見えてくるのは、“小売りの世界を変えていく”というソフトバンクグループの戦略だ。7月11日に開催された法人向けイベント「SoftBank World 2012」では、クラウドPOSとPayPal Hereをテーマとする講演から、その一端が垣間見えた。

情報の発見・認知から送客、決済までを一気通貫で

Photo ペイパルジャパンのCEOに就任予定の喜多埜裕明氏

 今やネット利用は、人々の購買活動に欠かせないものとなりつつある。欲しいと思ったものを検索して見定め、より安く買える店を探し、宅配便で商品を受け取る――。こういったオンラインで完結する買い物のスタイルはもはや特別なことではなく、リアル店舗を構える企業も続々とオンラインに進出している。

 ソフトバンクグループは、ネットショップの構築を支援する「Yahoo!ショッピング」や、多彩な決済方法を用意した「ソフトバンク・ペイメント・サービス」を提供することで、「オンライン・ツー・オンライン」(オンラインで商品を探し、オンラインで決済する)ビジネスを支えてきた。

 そんな同社が今、注目しているのが、「オンライン・ツー・オフライン」(O2O)の市場だ。これは、“ネットで探した情報をもとに、リアル店舗で購買行動を行う”という送客スタイル。ネットで調べて気に入った商品をリアル店舗で購入したり、外出先で飲食店を調べて食事をするようなケースがこれにあたる。

 インターネットを利用して商品を認知・発見する手段についてヤフーは、Yahoo!の検索サービスをはじめ、Yahoo!ロコのグルメ情報やクーポン、トラベル情報などを提供している。しかし、ペイパルジャパンのCEOに就任予定の喜多埜裕明氏は、そこから先の実店舗向けサービスについては「詰めが甘かった」と話す。PayPal Hereやクラウド型POSサービスなどの決済関連サービスを充実させることで、認知・発見から送客、決済までをトータルでサポートするのがソフトバンクグループの戦略というわけだ。

中小店舗でもクレジット決済システムを導入可能に

 ソフトバンクグループが実店舗向けに、新たに提供しようとしている決済サービスは、PayPal Hereとクラウド型のPOSサービスだ。

 PayPal Hereは、導入のハードルが高いクレジットカード決済システムを、中小店舗でも手軽に展開できるようにするサービス。ペイパルジャパン CEOの喜多埜氏によると、クレジットカード決済のシステムを導入するには、カードの読み取り端末や決済情報を送るためのネットワーク回線が必要で、10万円前後の初期導入コストがかかるという。また、料金の回収に1〜2週間ほどかかるほか、決済手数料も中小店舗では5%〜8%になる場合もあるなど導入のハードルが高いのが現状だ。

 こうした事情からか、国内店舗のクレジットカード決済の導入は遅れており、未導入の店舗が大半を占めるという。

Photo クレジットカード決済システムの導入はハードルが高く、未導入の店舗が大半を占める

 PayPal Hereは、カードの読み取り機についてはスマートフォンのイヤフォンジャックに差して使える小型のデバイス(販売価格は1200円前後を予定)を購入するだけでよく、決済時に必要な通信はスマートフォンの無線ネットワークを利用できる。手数料は商品購入代金の5%と一律で、店舗側がこれ以外の料金をクレジットカード会社に支払う必要はない。キャッシュ化までの期間も3〜6営業日と短く、中小規模の店舗でも導入しやすいのが特徴だ。

 PayPal Hereを導入した店舗は、事前に店の商品を登録しておく必要があるが、それが済めばあとの操作は簡単だ。来店者がクレジットカードを利用する際にスマートフォンアプリ上の商品をタップし、PayPal Hereの決済端末にカードをスワイプさせ、アプリ上でサインをもらえばカード決済が完了する。レシートもメールで送るだけでなく、小型プリンタによる出力にも対応する予定だ。

Photo 決済用端末はソフトバンクショップなどで販売する予定。カード決済時の操作はシンプルで分かりやすい

Photo これまでカード決済システムの導入が難しかったところでも使えるようになる。セキュリティ面に配慮した設計になっているという

 さらに将来は、店で来店者が買い物をする際、“カードもサイフも出さずに”決済できる「チェックイン」機能の提供も予定している。これは、来店予定者が店に買い物に立ち寄る前にスマホからチェックインしておくと、その人の情報が店舗に送信され、店側は支払いの際にチェックインリストから当該する来店者をクリックするだけで会計ができるというシステムだ。

 ソフトバンクグループの代表取締役社長を務める孫正義氏は、PayPalとの合弁会社設立の発表会で「5〜10年たったら、サイフを持つのが恥ずかしい時代になるかもしれない」と話しており、そんな決済環境の実現に向け、ビジネスを展開する計画だ。

Photo PayPal Hereの一機能の「チェックイン」
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