鉄道紀行のカリスマが夢見た「富士登山鉄道」とは杉山淳一の時事日想(2/6 ページ)

» 2013年06月28日 08時18分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

1992年、鉄道紀行作家・宮脇俊三の「予言」

夢の山岳鉄道』(新潮文庫版、宮脇俊三著)

 富士登山鉄道がどんな形になるか、もうすこし具体的なプランを見たい。そこで参考になる本がある。『夢の山岳鉄道』(1993年JTB/1995年新潮文庫)だ。著者は宮脇俊三(1926−2003年)氏。中央公論や婦人公論などの編集長の激務の傍ら、余暇をみつけて国鉄の全路線を完乗。その手記を『時刻表2万キロ』(角川文庫)として出版し、これを機にフリーの紀行作家に転じた。『時刻表2万キロ』は当時大きな話題となり、「乗り鉄」の認知度を高めた。お固い国鉄もその機運に乗って「いい旅チャレンジ2万キロキャンペーン」を展開したほどだ。宮脇俊三はその後、鉄道紀行作品を多数著し、鉄道紀行作家のカリスマ的存在となった。

 その宮脇氏が1991年に雑誌『旅』1月号に「上高地鉄道」を提案した。鉄道を敷いてクルマを排除すれば、渋滞と環境破壊の両方を解決できる。この反響が大きく、架空鉄道の連載が始まった。それをまとめた本が『夢の山岳鉄道』である。「富士山鉄道・五合目線」も同書に含まれる。

 「富士山鉄道・五合目線」も、富士急行社長などが提案するように、富士スバルラインの鉄道転換を提案している。そこに鉄道好きならではの路線策定と車両構想を織り込んだ。ただし、机上のプランだけではなく、現地を視察し、識者に意見を乞うという力作だ。おそらく、いま富士登山鉄道を提唱する方々は少なからず影響を受けているはずである。ここで全文を転用するわけにもいかず、エッセンスのみの紹介にとどめる。同書はJTBパブリッシングも新潮社も絶版となっているようで、この機会に復刊してはいかがだろうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.