来てよその“日”を飛び越えて――今こそ、震災復興ツーリズムのススメ『あまちゃん』最終回記念(3/9 ページ)

» 2013年09月30日 12時40分 公開
[本橋ゆうこ,Business Media 誠]
誠ブログ

石巻市街を自転車で走り回る

 石巻市に滞在して1日は、できるだけ市街を見て回ることに決めていた。といっても当方、旅先で使える車などはない。乗れるものは列車か、バスか、自転車くらいだ。その自転車も、本格的な自転車乗りであれば愛機をバラして担いで行くところだろうが、分解不能なママチャリしか持っていないのでそれも無理。とりあえず着いた先で駅前のレンタサイクルを探すことにしていた。

 旅をしていたのは8月終わりから9月初めにかけての時期だったが、その日はものすごく暑い日で、ジリジリくる日差しは、5分かそこら外に立っているだけでクッキリ皮膚に境目ができそうな強さだった。

JR石巻駅。駅舎には石ノ森章太郎氏の作品キャラクターが

 駅でもらった案内によると、貸自転車屋さんは駅前通りに震災後に作られた「復興商店街」の中にあるという。しかも無料(2時間限定だが)。どうせカゴつきのママチャリでそう遠くまでも走れないし、とこれに決める。なかなか気合いの入ったデザインの自転車を借りて、さっそうと走り出した。

石巻駅前の復興商店街で借りたレンタル自転車

 商店街の中を行くと両脇の店舗にはところどころくしの歯が抜けたような空き地がある。それだけではない。信号待ちの交差点には陥没を埋めた跡とおぼしき凹凸があり、川沿いのガードレールは溶けた飴のようにぐんにゃりと変形している。

 日焼け防止のために暑い中フード付きの上着を羽織って、さらに海を目指して走り続けると、とうとう途中で道が消失してしまった。妙に落ち着かない気持ちにさせるだだっ広い更地に挟まれた崩れた道路の、そのくぼんだアスファルトにできた水たまりの手前には、「この先立ち入り禁止」の表示が掛かっている。

 ふと目を転じると、橋のたもとには、かつて自動車の形をしていた赤錆びたクズ鉄の山がごたごたと片づけられていて、以前この一帯を覆い尽くしていたであろう、震災がれきの名残をひっそりと今も見せていた。

写真右側に積まれたくず鉄には、よく見ると車輪がある

 駅や市役所がある石巻の市街地はかなり復興が進んだように見えても、一歩踏み込めばこんな風に復興の途中で置き去りにされた光景がいくらでもあるのだろう。来た道の先、津波をかぶった広大な更地の突きあたりには、3.11の津波の後に火災で全焼した石巻市立門脇小学校があったのだが(参照リンク)、既に全体をカバーで覆われていて、すすけた壁が一部見えるだけだった。

奥に見えるのが門脇小学校

 この門脇小学校の被災校舎は、実は「震災遺構」として残すべきかどうか、石巻市政での議論が始まっていて、予算の問題などもあり場合によっては取り壊しも考えられるのだという。ううむ、それはやっぱり焦ってしないほうがいいのでは……?と、他所者の自分が強く感じることになるのは、この自転車散策と、後述するもう1つの「震災遺構」を目にした経験からなのだが、まずは石巻市街の探索行を続けることにしよう。

ところで、石巻市には石ノ森萬画館(参照リンク)というかなり有名な観光スポットがあるのをご存じだろうか。

3.11で津波被害を受け再オープンした、ドーム型の石ノ森漫画館
石巻駅に停車していた、石ノ森キャラクターのラッピング車両

 石ノ森萬画館は、巨匠・石ノ森章太郎のマンガやアニメ作品をテーマにした記念館で、イラストや漫画を描く身としては是非とも訪れておかなければならない聖地だ。ここを最終目的地にして、海沿いに進んで河口に掛かる大きな橋をわたって、石巻市街中心部をだいたい一周して戻ってこようと決めた。

 海岸部はまだ通行不能になっている道もいくつかあり、津波の衝撃に建物を打ち抜かれてしまって操業停止に追い込まれた加工工場の跡地なども散見された。活気に満ちていたであろう市場の通りや、ロープで閉鎖された区画を見るのはなんだか胸が痛む。早くこの岸壁がたくさんの船でいっぱいになればいいと思いながら自転車で走り続けた。

魚市場前の岸壁

 橋の歩道側は利用する人も少ないのか、アスファルトは剥がれ、砂利の間から草が生えていた。用心して自転車を降りて手で押して通過する。橋の最も高い地点に立って市街を見下ろすと、広大な更地以外、遠目には津波のつめ跡はもう見えなくなったかのようだ。

 しかし決してそうではないことを、ここまで荒れた道に苦労しつつ進んで来た自転車のタイヤが、ちゃんと知っている。眼下に見えるあの家、いくつかの建物は、屋根と壁こそ残っているけれど、そこに暮らしているはずの人が、もう居なくなってしまった空家なのだ、と。

旧北上川にかかる日和大橋
別の日に、日和山からの石巻市街の眺望

 振り返ると、水平線に太陽の光が乱舞する海はどこまでも広く穏やか。「本当にこの美しい海が……?」と信じられない思いに駆られながら、レンタサイクルの返却時間に間に合うように橋を降りた。

 閉館直前に訪れた石ノ森漫画館は思っていたのとは違い、あまり生原稿などは多くなかった。子ども向けのアトラクション的なものが充実していた気がする。(個人的には「009アメコミ化」ってどうなのだろう…?などと思った。)