「ななつ星in九州」に見る、乗客をつくるビジネス杉山淳一の時事日想(2/6 ページ)

» 2013年11月01日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]
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「ななつ星in九州」が生まれた背景

 九州の佐賀県唐津市に虹の松原という景勝地がある。唐津湾沿岸の約5キロメートルにわたって黒松の林が続く。江戸時代に唐津藩主が防風林として植えた人工の林だ。もともと白い砂浜が続く地域で、まさに白砂青松の景観だ。ただし、海水浴の時期以外は観光客はそれほど多くない。2007年の初夏に私が訪れた時も、松林を歩き海岸を散策する人は少なかった。虹の松原の最寄り駅は、JR九州の筑肥線の虹ノ松原駅である。筑肥線は福岡市営地下鉄に乗り入れる通勤路線。しかし複線区間は途中の筑前前原まで。虹ノ松原駅付近は単線のローカル線である。無人駅。列車は下り、上りとも30分間隔だ。

虹の松原から虹ノ松原駅を望む

 その日の昼下がり。私が虹ノ松原駅で列車を待っていると、恰幅(かっぷく)の良いスーツ姿の中年男性が現れた。時間的にも場所的にも珍しい姿である。その男性は徒歩で駅に近づくと、駅のそばの雑貨店に入って店主にあいさつし、しばらく談笑した後にホームにやってきた。初夏の強い日差し。小さな待合所に私と彼の2人だけ。黙っていても気まずかったのであいさつすると、彼はJR九州の社員だった。

 私が東京から来た鉄道好きだと自己紹介すると、彼は「東京の鉄道は良いですなあ。どんどんお客さんが乗ってくれて」という。JR九州は「なんとか鉄道を選んでくださる方法を考えなくては、と常に考えているんですよ」と。彼の仕事は、沿線できっぷを委託販売している商店などをサポートしているという。小さな話から、少しでも乗客増のヒントを見つけようとして、ほぼ毎日、駅周辺を巡っているそうだ。

2007年、ここでJR九州の担当者と立ち話。彼のリサーチも「ななつ星in九州」に実を結んだかも?

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