ではなぜ、今の30〜40代に「転職モテ期」が到来しているのか? これまでは20代までの中途採用を積極的に行ってきた、上場IT企業の人事部長はこう言う。
「以前は、未経験でもいいから第2新卒で若い人材を……という方針で中途採用の計画を立てていましたが、リーマンショックの後、戦力化できていない若手社員があぶれて経営が圧迫されるという苦い経験をしました。これではいけないということで、翌年からは戦力として計算できる30代以上を積極採用しています」
また、同じく30〜40代のミドル層の採用に積極的な化学メーカーの人事マネージャーは、「当社は、プロパー主義で社員を育てることに重きを置いてきました。しかし、リーマンショック以降は、特にアジアの競合が台頭して、経営スピードも商品開発スピードも高速化しないと勝てなくなりました。グローバル化も押し進めないと日本市場は飽和状態ですし。だから、即戦力となる30〜40代が必要なのです」と言い、「どれくらいの人数を募集するのか?」と尋ねると、「即戦力として見合う人材であれば募集人数は制限しません」とまで言った。
30〜40代に「転職モテ期」が到来している理由。それは、「国内外の競合他社に勝つために即戦力が必要」で「若手を育てている時間はない」という、リーマンショックで一変した採用事情に起因するのである。
このような企業ニーズに応えようと、人材ビジネス会社も新サービスを打ち出している。インテリジェンスやパソナグループは、経済産業省から委託を受けて、大企業出身で35歳以上の専門職経験者を成長企業へ出向させる事業を開始した。また、前述の人材紹介大手3社の転職支援実績が示すように、この機を逃がすまいと他の人材紹介会社も、30〜40代の転職希望者の獲得強化へと動いている。まさにこの世代の「転職モテ期」と言わんばかりに、今日もあちこちでラブコールが送られているのだ。
また、冒頭で紹介したヘッドハンターから電話が突然かかって来るというように、「転職活動はしていないのに企業からのスカウトが突然やって来る」という現象が増えているのも、実は転職希望者の取り合いが激化している延長なのである。なぜなら、30〜40代で転職をしようという人材はもともと少なく、特に優秀な人材などは他求人企業との競争が激しいため、「ただ応募を待っているだけでは、そんな人材には巡り合えない」状況なのだ。そこで、求職者以外からも可能性があるならば……と、ヘッドハンティングで採用を試みる企業が増えおり、われわれのようなヘッドハンティング会社を通したスカウト活動が増加しているというわけだ。
そもそも転職活動中の人材なんて労働人口の5〜10%に過ぎず、60〜70%は「転職活動をしていないが、良い話があれば移籍は有り得る」という、いわば“白馬の王子”をひそかに待っている人材である。ヘッドハンティングではこの60〜70%の人材を狙うのだが、昨今の30〜40代においては「転職モテ期」の恩恵で、「まさか、新卒のころ憧れていたあの企業から20年の時を経てオファーが来るとは!」といった、“まさに白馬の王子がやって来た”ような経験をする人が、思いのほか多いのである。
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