オタクビジネスを成功させる「商品のストーリー性」とはオタクの心をつかめ(2/3 ページ)

» 2013年11月15日 08時00分 公開
[寺尾幸紘,Business Media 誠]

限定モノは強い

 太陽のトマト麺は、このストーリー性にさらに一歩踏み込んでいる。『レイの豆乳パイタン麺』は注文する際に、にんにくとチャーシューを抜くことができるというオプションサービスが付与されていた。このサービスがオタクの遊び心をくすぐり、ストーリー性にさらに存在感を加えた(綾波レイはTV版の第12話「奇跡の価値は」の中で「にんにくラーメン チャーシュー抜き」を注文している)。

 また、これは基本的な情報だが、オタクは期間限定や限定商品といった「限定モノ」に弱い。特にエヴァンゲリオンのように熱烈なオタクがそのアイテムを集め続けてきたような作品では、彼らは妥協せずに全力でそれらを手に入れようとする。

ストーリー性+意外性でオタクが殺到した「エヴァローソン」

 『新世紀エヴァンゲリオン』は、第3新東京市という架空の都市が主な舞台となっている。そしてこの第3新東京市は、箱根がモデルになっている。2010年4月23日にローソン箱根仙石原店は、店内外をエヴァンゲリオン一色に染めた「ローソンエヴァンゲリオン企画」を開催した。

 店の入り口には「ローソン第3新東京市店OPEN!!」と書かれた看板とのぼりが出されており、外壁と店内のいたるところにキャラクターや零号機、初号機、弐号機のイラストが描かれ、店員のジャケットには「LAWSON TOKYO‐III」とまで書かれていた。

 店内の商品はエヴァンゲリオンの各種コラボレーション商品が目白押しとなっており、「エヴァ商品を含む1000円以上お買い上げのお客様に、箱根補完マップ第3新東京市店限定Ver.をプレゼント」という、オタク垂涎のキャンペーンも開催されていた。

 しかし5月17日まで開催される予定だったこのイベントは、あまりの来店者数の多さに道が大渋滞となり、近隣住民から騒音の苦情も出たため、開始早々3日目にしてメインイベントが中止になってしまった。この成功と失敗には次の要因が考えられる。

 まず、太陽のトマト麺の事例と同じように店舗にストーリー性があり、さらにローソンがアニメ作品とコラボレーションするという意外性がオタクの注目を集めた。この意外性の中には1つの重要なヒントが隠されている。オタクの文化はサブカルチャーと呼ばれているが、そのサブカルチャーが公共性の高い企業や機関とコラボレーションをすると、オタクのテンションは異常に上がるのである。

 ネット上では「あの有名企業があの作品とコラボ!?」「町が作品を受け入れた!」「そんな人目につくところに……恥ずかしい」「公式が病気(笑)」といった感想が飛び出し、自分の愛する作品が「公」に認められたことをまるで自分のことのように誇らしく感じるのだ。また、壁や看板などを徹底的に「エヴァ」一色に染め上げる事であふれる愛を表現していた。この2点が成功の要因である。

 失敗だったのは、一店舗限定でキャンペーンを開催してしまったことだ。ローソン箱根仙石原店は普通のローソンと同じように道のかたわらに店舗を構えており、広い駐車場などもなく、混雑や渋滞を引き起こしてしまったのである。

 

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