交通権ってなに? 画期的な法案が成立、私たちの生活はどうなる杉山淳一の時事日想(2/6 ページ)

» 2013年11月29日 08時05分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

「交通権」は「基本的人権」である

 交通権は他の人権に比較すると新しい考え方だ。英国、米国、フランスなど先進国では1970年代から1980年代にかけてバリアフリーを推進する法整備が進んだ。障害者が公共交通機関を利用できる環境を整備し、また障害者という理由で公共交通機関の利用を排除してならないという考え方だ。これは日本でも取り入れられてきた。しかし、これらは障害者が健常者と同じ交通権を得るための法整備だった。

 その次の段階として、フランスでは1982年に「国内交通基本法」が施行された。ここで交通権は「すべての人が自由に移動できる最低限の権利」と「交通手段の選択の自由」が再定義された。国や自治体はこの権利を保証するために、公共交通機関を整備したり、経営難で運行維持が難しい交通機関を支援する。その考え方の延長線上に“鉄道の上下分離”という仕組みがある。線路や施設を国や自治体が責任を持って管理し、鉄道会社は列車の運行に専念する。欧州にはオープンアクセスという考え方があって、同じ線路で複数の鉄道会社が列車を運行できる。日本では、“上下分離”のアイデアだけが先に取り入れられた。経営難の地方鉄道を支え、都市部の建設費がかさむ新線を建設するための処方せんだ。しかし、交通権という考え方は希薄だった。

 民間の鉄道会社に対して、原則として国は介入しない。路線廃止の方針が打ち出されると、それぞれの事案に個別に対応してきた。その結果、鉄道が代行バスに代わったものの、代行バスも赤字、自治体が運行するバスに対しても「税のムダ遣い」が指摘され廃止されてしまう。こうしていくつもの村落が近隣都市と遮断され孤立化する。

 こうした事態にならないように、人々が自由に移動する権利「交通権」について、国や自治体がきちんと責任を持つ。これを明記した法律が「交通政策基本法」だ。内閣が閣議決定し、2013年11月13日に衆議院国土交通委員会で可決、即日施行された。法案に賛成した会派は自民、自民、公明、民主、維新、みんなと無所属議員1人。反対は共産。ただし共産党の反対理由は、「内閣案の“国際競争力の強化”の文言によって、大規模交通事業開発を肯定すべきではない」「公共交通機関の安全確保と交通事業従事者の労働条件の改善を求める」などであり、「交通権」と法案の必要性は否定していない。つまり、交通権に関しては全会派が一致した。

交通政策基本法案(内閣提出第17号)が賛成多数で可決した (出典:衆議院公式サイト)

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