「彼らが物心ついたときにはすべて出そろっていたわけですから、だとしたらそんな状況で未来を向いていくことは難しい。例えば将来の目標はあるでしょうけど、もう僕らが子どものころみたいに無邪気に『月に住めるかもしれない』とか考えにくいじゃないですか。昔はまだ発展途上だったからこそ、未来に対して夢が持てたけど、技術がひととおり出そろったいまは、現実が現実的すぎて夢を見づらいから。そんな中で何を未来として思考するかといったら、過去のことでいいと思うんです」
「実際、その世代の人はすごく過去のことに詳しいですよ。探究心旺盛で、よく調べる。そういうところも僕らと似ている。で、過去に影響されて、そこから面白いアウトプットをしてる人たちがたくさんいる。ゆとり世代だと言われていますけど、実はひとりひとり違うし、すごくポジティブで熱心な人たちも僕は知っている。だから、ひとくくりにされちゃうのはかわいそうだなと思っています。大人はこれから、そういう若い世代に対して楽しい場所や時間を提供することに時間を費やしていったほうがいいですよね」
ところで青野さんからは、さりげない孤独感のようなものを覚えることがある。悲壮感とはまったく異なる、まるで衣服のような、不思議な孤独感だ。ご本人も、多少はそれを自覚しているようで……。
「うんうん、なんなんでしょうね(笑)。ひとつは単純に、“つるむ”ことが苦手だからだと思います。めんどくさくなっちゃうっていうか。僕はひとりっ子なんですよ。で、父と母は僕が小6のときに離婚していて、それ以前も父親はあまり家にいなかったんです。父は千葉大の理工学部を出て、当時はまだポピュラーではなかったシステムエンジニアみたいなことをやっていたから頭のいい人だったんだろうなと思うんです。でも海外出張ばっかりで日本にほとんどいなかったので、物心ついたときから母親とふたりの時間が長かった。すると、ひとりの時間が圧倒的に多くなるんです。たぶんそれが、大きな理由のひとつかなあと思いますけどね。親の離婚も……まあ、そりゃショックはありましたけど、物理的にはそんなに影響はなかったです。別にグレたりもしなかったし(笑)」
→これからの時代に必要なのは? ビームス創造研究所の青野賢一さんに聞く(前編)
1962年東京生まれ。ライター、編集者、コピーライター。人間性を引き出すことに主眼を置いたインタビューを得意分野とし、週刊文春、日刊現代、STORYなどさまざまな媒体において、これまでに500件におよぶインタビュー実積を持つ。また書評家でもあり、「ライフハッカー」への寄稿は高い評価を得ている。
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