マンデラ追悼式で浮き彫りになる現代の人種差別伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)

» 2013年12月19日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

ミシェル・オバマの「冷たい視線」

 とにかくあの金髪女性は何者だと盛り上がったのだが、実のところ、本当に物議をかもしたのは、自分撮りを楽しむトーニング=シュミットでも、ニヤけたオバマでもキャメロンでもなかった。ネットやメディアでは、その後ろに映っているオバマの妻で米ファーストレディのミシェル・オバマに注目が集まったのだ。

 ミシェルは不機嫌そうな表情をして、「3人を無視しているように見える」というのだ。他の写真では、夫とシュミットが親しげに談笑している隣で、ミシェルが非常に冷たい目でシュミットをにらみつけているかのような姿がとらえられている。ネットでは「金髪女性と談笑する夫」に対する不機嫌さの現れとばかりに騒ぎ立てられ、フランスのメディアには「le regard noir」つまり「冷たい視線」という言葉が踊った。

 しかも今回のミシェルの「目」の冷淡さを強調するために、過去に撮影されたミシェルの「にらみ」の例もあらためて紹介されている。例えば、かつてノルマンディ上陸作戦の65周年記念式典で、ミシェルが当時のフランス大統領だったニコラ・サルコジの妻で元モデルのカーラ・ブルーニに対して「メンチを切る」写真が好例として取り上げられた。もちろん実際ににらみつけていたのかどうかは本人に聞かないと分からないのだが。

 こうした騒動は黒人差別の一端のような気がしてならない。しかもネットや一部メディアがそれを暗にあおっている感もある。黒人のファーストレディーが、欧州の白人社会の中で、白人に対して敵意をむき出しにしている――。そんなニュアンスが、メディアなどの報道では見え隠れする。

ブッシュがデレデレしていても、悪意のある報道はない

 米メディアでもいまだに「Angry Black Woman」、つまり黒人女性はいつも怒っているという差別的なステレオタイプが見受けられるが、今回のミシェルの表情についても同様のニュアンスをにじませる報道が、大手メディアですらみられた。

 日本でも「在日特権を許さない市民の会」いわゆる在特会や、ネトウヨ(ネット右翼)のヘイトスピーチが問題視されている。だがネットを中心としたヘイトスピーチは決して日本に限ったことではない。排他的な保守系の人たち、海外の分かりやすい例で言えば白人至上主義者やネオナチのような人たちが、日本のネトウヨのように悪意に満ちた主張を繰り広げているのだ。ミシェルは今回もまた、そんな人たちの格好の餌食にされたようだった。

 今回の追悼式には、米国からはオバマ大統領夫妻をはじめ、ブッシュ前大統領夫妻、クリントン前大統領夫妻が参加した。さらに政権内の黒人VIP(エリック・ホルダー司法長官やスーザン・ライス大統領補佐官)なども参列。みんなが同じエアフォースワンに乗って南アフリカ入りしたことも話題になった。

 ブッシュ前大統領も、追悼式ではヨルダンのラニア王妃とスタジアムで親しげに話す姿が撮られ、ブッシュの隣に座る妻のローラ・ブッシュが「不機嫌」に見えるとして少しニュースになっていた。だがミシェルほどの盛り上がりと悪意ある取り上げられ方はされていない。

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