安藤美姫はどこへ行く?――韓国フィギュア界もラブコール臼北信行のスポーツ裏ネタ通信(2/4 ページ)

» 2014年01月23日 08時00分 公開
[臼北信行,Business Media 誠]

 心ない中傷であったが、そんな陰口を叩かれてしまうのも無理はなかった。日本のフィギュア選手で出産後も現役を続けたスケーターは、安藤以外に1人もいない。普通に考えれば「出産」と「競技生活」を短期間のうちに両立させることは極めて困難。通常、産後の女性の体が落ち着くのは6週間目と言われている。その間は産後の肥立ちが悪くなることから、本来ならば運動は控えなければならない。

 出産により筋力は衰え、骨ももろくなっている。骨盤が開くことにより体を支えるインナーマッスルも、自然と緩んでしまう。産後ケアを怠ると、骨盤が元の位置に戻らなくなって腰痛などに苦しめられる危険性が高い。「ホルモンバランスや次の生理がいつ始まるかなどの個人差はあるが、産後から通常の身体に戻るには1年ぐらいかかる」というのがスポーツ医学界有識者たちの見解である。

 しかし安藤は出産からわずか2カ月後の2013年6月にはアイスショーに出演していた。常識では考えられないような体力と、リスクを恐れない不屈の精神力で自らの競技人生を全うしようとしていたのだ。

 「もちろん身体の状態や残された時間を考えれば、ソチ五輪の代表の座を争うことが絶望的だったことぐらい、美姫ちゃんはテレ朝のインタビューに答えたときから百も承知だった。でも、このまま終わるわけにはいかなかったのです。

 前コーチのモロゾフさんと『諸々』あってからコーチ不在になり、2シーズンを不本意な形で欠場。未婚のまま出産し、フェードアウトするシナリオなんて彼女の性格から考えれば絶対にできるわけがない。そこには、やはり世界選手権で2度優勝した元女王のプライドもある。自分が置かれた立場を理解し、幕の引き方について熟考して答えを出したのです」(安藤に近い関係者)

 そして何より前途の「五輪も、満足な演技も、どうせ無理」などといった周囲からの厳しい声も、彼女の負けず嫌いの闘争心に火をつけていた。前出の関係者は補足する。

 「美姫ちゃんはもともと出産と五輪挑戦を口にすることで世間に『女性の強さ』もテーマとして訴えたかったのです。テレ朝のインタビューに答えた後、周囲に『仮に五輪に行けなかったとしても、何もやらないまま終わるよりは数千倍もいい。私の挑戦が世の中の女性の人たちに勇気を与えることができれば、うれしい』と漏らしていましたからね。そういう明確な方向性と強い意志を持っていたから、バッシングも糧にすることができたのです」

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