さて、本題に入ろう。このコラムは、あくまで人々の心理を掘り下げて明らかにし、それをヒントに「お金のセンス」を身につけてもらうことが主旨である。まずは「タダ」にどれほどの価値があるかを見ていきたい。
まず、本来1000円であったものが(1)50円になった場合(950円割引)と、(2)タダになった場合について考えてみよう。どちらもかなり魅力的なディスカウントである。普通に考えれば、2つ事例の差はたった“50円”であまり違いはないように感じる。しかし、人々の心理と行動に及ぼすインパクトは大きく違う。金額の差以上に、(1)「有料」か? (2)「タダ」か? が問題なのだ。
仮に、何かモノやサービスを「有料」で手に入れる場合、当然、そこには支払い&決済という手間がかかる。その面倒な手間に加え、お金を払う際には多少なりとも心理的な不安と緊張感が伴うので、それを乗り越えるパワーも必要となってくる。
「有料」になった瞬間に(それが少額であれ)いろいろわずらわしい思いが発生して、とたんに行動を起こすことが面倒になるのである。「タダ」の価値は、ディスカウント分の金額をはるかに超えるパワフルなものであることが分かるだろう。逆に言うと、それだけ「タダ」は、行動におけるハードルを低くしてくれるのである。
加えて「タダ」は、“右脳的直観”にダイレクトに訴える。お金がかかる(有料)となるとあれこれ考えを巡らすが、 「タダ」は興味関心さえあれば、あまりよく考えず“好奇心”や“気分”だけで申し込んだりする。さらに、家族や友人に「とりあえず、タダだったから申込んじゃった」といったお気軽な言い訳もできる。つまり、何かとその企業との“関係をスタートさせやすい”のである。
このことは、体験するチャンスを与えられトライアルを促進するので企業と消費者双方にメリットがあるが、特にわれわれ消費者側の立場からすると大いに気をつけなければならない。何事もそうだが、実は、関係をスタートさせることより、終わらせることのほうがはるかに難しいのだ。
自分もあまり気づかないうちにズルズルと関係を続け、いつの間にか結構な時間とお金を費やしてしまう場合もある。別の角度から「タダ」が人の心理におよぼしたネガティブな事例を見てみよう。
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