森永賢治(もりなが・けんじ)
1992年、ADKに入社。通信、食品、化粧品、ファッション関連商品のマーケティング・ディレクターを経て、1999年「金融プロジェクト」リーダーに就任。現在、ストラテジック・プランニング本部長(金融カテゴリーチーム・リーダー兼務)。JMAマーケティングマイスター。
「お金もセンス」の第2回目は「タダ」について取り上げる。「タダ」つまり“無料”の心理である。「タダ」は、もうその言葉そのものが魅力である。古今東西、老若男女、これに魅力を感じない人はいないであろう。
私が携わってきた金融コミュニケーションの世界でも、この「タダ」は伝家の宝刀である。クレジットカードの調査を行うと、カード選択の理由のナンバーワンは「ポイントサービス」ではなく、実は「年会費無料」である。ほとんどの保険ショップは「相談は無料」を掲げ、カードローンでは「30日間無利息」、証券会社は年中「無料セミナー」を実施し、銀行も「ATM手数料無料」のところが多い。条件によっては振込手数料も「無料」。何から何まで「無料」づくしである。
3D Robotics社のクリス・アンダーソンCEOが『FREE〜<無料>からお金を生みだす新戦略』を出版してベストセラーになったのが4〜5年前である。やはり彼の読み通り、「無料」の時代が訪れたか! と思いきや、考えてみれば、先ほど上げたすべてのサービスはそれ以前から行われているものだ。確かにデジタルの世界では、ここ数年で「無料」は1つの「当たり前」「お約束」として急速に定着した。
しかし、元来、特に日本人は「無料」をセールスやコミュニケーションにうまく活用してきた民族なのである。「さあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」精神というか、例えば昭和の紙芝居屋さんでも、紙芝居を見るのはタダ。その延長で水アメがほしい人には売る。そういう、まず無料でサービスを提供して、人を集めて、コミュニティを作って、買いたい人に売る。
このスタイルというか文化の中で育った日本人は、「無料」に対して警戒心はあまりなく、むしろ享受してきたのだろう。言い方を変えると、“うまく生活に取り入れてきた”のである。今でも地方では、採れた野菜や魚をご近所に配ったり、都会でも街の八百屋では「お客さんべっぴんさん(死語)だから、トマト1個おまけしとくね」は、よくある日常の光景である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング