そもそも人間は「損をする」ことに対し非常に嫌悪感を抱く。文字通り「お金を失う」わけであるから当たり前のことである。しかし、実はそれ以上に「損をした自分の不甲斐なさ」に対し、怒りと自己嫌悪と恥ずかしさと不名誉を感じるのである。逆に言うと、「かしこい買い物」は、得した金額以上に自己満足という「名誉」が与えられるということだ。
この流れで「名誉・不名誉とお金」に関係する面白い体験があるのでお話ししたい。あるPC出張サービス会社の広告の仕事をやらせていただいた時のことである。その会社は、会員制で50〜60代の一般中高年をターゲットにしていた。PCやスマホが故障した時などに遠隔操作で修理してくれる非常に便利なサービスであるが、とにかく年会費が高い。これでは会員も集まらないだろうと思いながらも、一応グループインタビューを実施したところ、驚くべき結果が出た。
集まった人の半数近くが「ぜひ、利用したい」と答えたのだ。利用したいという人に、その理由を聞いたところ「自分の名誉のため」を挙げる人が最も多かった。「なんで自分の名誉なの?」と思われた人もいるかもしれないので、参加者の発言を紹介しよう。
「もし、ある時PCの調子がおかしくなって、奥さんから『あなたちょっと何とかしてよ』と頼まれたとする。家電くらいは何とかなるかもしれないが、PCだと下手にいじってますます調子がおかしくなって取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。
もしそうなったら、妻の冷ややかな視線に耐えられない。男としての沽券(こけん)に関わる。そんな目に合うくらいだったら、多少高くてもこのサービスの会員になってイザという時はすぐに連絡したほうがまし」――。
つまり、男の威厳を保てるなら“ある程度の金は払ってもいい”ということで「ささやかな名誉保持」に結構な値段がついた瞬間なのだ。
当初、高すぎる! と思ったこのサービスだったが、実はターゲットにとっては、ある意味「妥当な価格」だったわけである。
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