ダイハツのエンジニアが考えた筋道を想像してみると、まずはスポーツカーとしての走行性能を底上げしたかったと思われる。そのためには強固なフレームは不可欠だ。ところが、ベースとなるシャシーの状況が違う。背高モデル全盛の現在、先代の時のような高剛性の流用可能シャシーがない。
走行性能とは、突き詰めれば「タイヤをいかに上手に路面にコンタクトし続けるか」だ。それはタイヤの角度をどう保つかという問題であり、それを担うのがサスペンションである。クルマのサスペンションは、取り付け位置がしっかりしていないと、よじれが起きて正しく動くことができない。スケートボードの上でバットを振っているようすを想像してもらえば分かる通り、足場がしっかりしていることは極めて重要なのだ。だから2代目コペンでは、サスペンションの足場を担うフレームの強化を図った。D-Frameの採用によって、初代コペンに比べ、上下曲げ剛性約3倍、ねじれ剛性約1.5倍と圧倒的な強度を持つことに成功したのである。
しかし、単純にフレームの強化を狙うだけなら丈夫なモノコックでもいいはずである。しかしそれではデザインを含む多様なニーズを受け止めることができないのだ。ダイハツは都合の良い高剛性シャシーがなかったことを逆手に取って、高剛性の骨格フレームを設計し、ボディ外板を強度部材としての役割から解放したのである。
それによって「着せ替え自動車」としての可能性を持つことができた。もちろん、どんなクルマでもボディデザインは変えられる。しかし外板が強度を担っていれば、その度に強度テストや衝突安全基準への適合をやらなくてはならず、そんなコストは許容されない。ところがD-Frameなら、外板は強度に貢献していないので、外寸が変わらない限りにおいて自由にボディデザインを変更することができるわけだ。そういうシステムを構築しておいて、ダイハツはボディのデザインバリエーションを考えていく。
第1のモデルでは、その性能をスポーツに特化した。初代コペンの大きな欠点であった空力性能を大幅に改善して見せた。写真を見れば分かる通り、初代コペンは丸くツルンとしたかわいいテールデザインが魅力となっているのだが、このテール形状は後輪の浮き上がりを招く物理特性を持っている。後輪は走行中、飛行機の垂直尾翼と同じ役割を果たしているので、浮き上がって接地圧が下がると直進安定性が悪くなる。高速道路を直進していてもチョロチョロするのだ。
そこで第1のモデルでは、リアのデザインをスポーツカーとして常識的な形状に修正した。これによりリフト(浮き上がり)がなんと60%も軽減されたとダイハツは発表している。新型が優れているというより、旧型が欠陥を抱えていたと考えた方が自然だろう。エンジニアとしてこれを看過するわけにはいかなかったということだ。
ダイハツはこの第1のモデルを「リアルスポーツ」だと明言している。主にスポーツカー志向の男性層に向けたモデルで現在のラインアップで言えばそのフラッグシップにあたるのがコペン「Robe S」だろう。このモデルにはレカロ製シート、モモ製ステアリング、ビルシュタイン製ダンパーなど欧州ブランドの高級部品が多数インストールされており、伝統的なスポーツカー好きに訴求する内容となっている。
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