ひとつ重要なことを断っておきたい。このポルシェカーコネクトはヨーロッパ36カ国とアメリカ、カナダ、ロシア、南アフリカなどでは実際にサービスされているが、日本では使えない。また各国で車両や電波に関する法律が異なるので、サービスが行われている国でも機能は若干異なる。
機能が制限される各国の中でも、日本ではこうした機能を使うと抵触する法律が多く、将来的に導入そのものがなされない可能性が低いと筆者は見ている。今の状況だけを見れば、Apple Watchとつながる機能が使えなくてもそれほど困りそうではない。しかし世界の自動車3極、つまり欧州、北米、アジアの中でアジアだけが完全に取り残されている点、とりわけ日本のように世界のトップを争う自動車先進国で、新技術の入り口がぴったりと閉ざされていて本当にいいのか? ということは、改めて考えてみた方がいい。
ポルシェ以外の自動車メーカーのインフォテインメントシステムでも、スマートフォンとつながる機能を提供するものが増えているが、日本でだけ機能が制限されているという状態がかなり前から放置されっ放しなのだ。筆者は関係省庁に対し、規制緩和についての真剣な議論を求めたい。
筆者はApple Watchはあくまで第1弾であり、まだ試行錯誤の入り口の段階だと考えている。今の状態で将来にわたる可能性を否定するのは少々早計だと思う。ウェアラブル端末とクルマのコミュニケーションにはいくつかの大きな可能性があるのだ。
まずひとつの可能性は、Apple Watchにドライバーの健康状態をモニターできる機能が加わること。これができたらだいぶ状況は変わるはずだ。遠隔モニター、遠隔コントローラー、送受信端末というように端末とクルマの間のアクセスだけで考えていると、現状ではさしたる広がりはないだろうが、人間の状態を把握し、人間とクルマとの関係性の中で利用するとなれば話は変わってくる。
例えば脈拍や筋電量、体温、発汗状態などから、意識レベルの低下が読み取れれば、覚醒や休憩を促すことができるようになるだろう。飲酒や睡眠不足状態での運転を制限できる可能性もある。ウェアブル端末のあり方として、今後そうした要求はあらゆる方面で高まる可能性がある。クルマを人が運転するという前提に立てば、この機能によって安全性能が向上する余地は多分にあるだろう。
そして、もうひとつ。むしろこちらが本命と言えるかもしれないが、自動運転、さらにはその先に無人運転が可能になった時は、ドライバーがクルマの状況をリアルタイムで把握できるデバイスは極めて重要になってくるだろう。
クルマに迎えに来させる。あるいはどこか指定の場所に自動駐車させる。そういう場面で目視ができないクルマがどういう状況にあるかをモニタリングする仕組みは無くてはならないはずなのだ。
前回や前々回のコラムで書いたように、自動運転は着々と成果を上げつつある。そうした場面ではApple Watchを始めとするウェアラブル端末が今とは比べ物にならない重要度で語られるようになるだろう。
Apple Watchとポルシェ。ある種違和感のある組み合わせの中で、人とクルマの未来に向けた小さな一歩が、今まさに始まったところなのかもしれない。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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