JR東日本がクルマの自動運転に参入する日が来る?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)

» 2015年05月15日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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鉄道の存在意義を見つめ直す機会だ

 日本の自動車産業が世界で戦っていくには、自動運転社会の実現が急がれる。そこでBRTの道路を有効活用したい。そのためには、現在、BRT路線を運行している会社の参加が不可欠だ。日本でBRT専用道を運行しているのは数カ所ある。その中でもインパクトが大きい路線と言えば、JR東日本の気仙沼線と大船渡線だろう。鉄道再開の仮復旧という名目ながら、駅は鉄道からBRT向けへの改装が進んでいる。気仙沼線に至っては、鉄道運行区間の柳津駅〜前谷地駅間も平行道路にBRTバスを乗り入れている。直通客にとって柳津の乗り換えは不便だから、この施策は正しい。

 JR東日本がBRTバスに自動運転を導入したらどうか。これは既存の法律の範囲内で転換可能だ。現在、無人運転を実施している「ゆりかもめ」と同じ運行システムで、軌道が道路になる程度の話である。2005年の万博「愛・地球博」でトヨタが出展、運用したIMTS(Intelligent Multimode Transit System)は、まさにBRTの自動運転の具現化であり、鉄道路線として国の許可を得て運行していた。

トヨタIMTS。日本のクルマの自動運転は2005年の愛知万博で実用化されていた。ただし自動運転は専用道路区間のみ。新交通システム「磁気誘導式鉄道」の扱いで、鉄道路線として国の許可を得ていた トヨタIMTS。日本のクルマの自動運転は2005年の愛知万博で実用化されていた。ただし自動運転は専用道路区間のみ。新交通システム「磁気誘導式鉄道」の扱いで、鉄道路線として国の許可を得ていた
愛知万博のIMTSとロープウェー。東京オリンピック開催時、東京都のBRTと江東区のロープウェーが実現するとこんな風景になるかも 愛知万博のIMTSとロープウェー。東京オリンピック開催時、東京都のBRTと江東区のロープウェーが実現するとこんな風景になるかも

 こうなると、ローカル線にとっては鉄道であり続ける意味が問われる。鉄道には大量輸送、定時性、強固な安全システムという利点がある。しかし、ローカル線にとって、これら3点はコスト面で過剰な設備となり事業者の経営を圧迫する。一方、自動運転車のコストはIT技術の進展と大量生産によって下がっていく。

 日本の自動運転社会の実現に、JR東日本のBRT路線が大きな役割を果たすかもしれない。そして、閑散地域のローカル鉄道は、自動運転社会の要請に歩調を合わせる形で、BRTへ転換したほうが良いかもしれない。地方鉄道の活性化について、多くの人々が尽力し模索している。そこに水を差すようで申し訳ないけれど、そもそも鉄道であるべきか、という議論が、自動運転社会で問われそうだ。鉄道ファンとしてはさみしい未来だけど、実用面だけを考えると、鉄道は「大都市、都市間向けの設備だ」と改めて思う。

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