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ハーゲンダッツ――“至福の瞬間”を形にしたドルチェ小西賢明の「お客様を想え。」(5/5 ページ)

アイスクリーム市場を牽引し続けるハーゲンダッツ。その新しいカテゴリーは、洋生菓子とアイスクリームの中間を行く「ドルチェ」だった。“至福”というコンセプトを完全に商品で再現した、ハーゲンダッツの強さとは?

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2008年4月に発売された新商品「ミルフィーユ」

 また、ティラミス、クレーム・ブリュレに続いて出された第3弾のフレーバー「モンブラン」は、プロモーション規模も小さく、地味な登場だった。このため皆さんの心に、ドルチェの強い印象はもはや残ってもいないかもしれない。

 しかしドルチェは2007年、年度計画40億に対し、53億(3割増)を売り切った。2008年もハーゲンダッツの4つの基本方針の1つとして、「新カテゴリー「ドルチェ」の確立」が掲げられており、今年の4月には、第4弾「ミルフィーユ」が発売される計画だ。

 「至福」を想起させるプロモーション。「至福」を想起させるパッケージ。いずれも、お見事。しかしここまでは、やれる企業も多い。ドルチェの凄さは、「ハーゲンダッツ・モーメント(至福の瞬間)」を、まさに商品そのものとして具現化しきったことにあると、僕は思う。難しいのに。ここまでやったら、あんまり儲からないかもしれないのに。それでも徹底して価値を具現化したその姿勢。これが、素晴らしかった。

 プロモーションも素敵。そしてプロダクトも素敵。それ自体が素敵というよりも、掲げた価値「至福」を本気で実現したことが、素晴らしい。

 「2007年日経優秀製品賞」の「優秀賞」をとったドルチェ。従来のミニカップがスーパーで特売されるなどハーゲンダッツブランド陳腐化の脅威が進む中、グッと高級感のテコ入れを実現したドルチェ。今後さらに、この市場をどう広げていってくれるのか。さらなる動きが楽しみなドルチェ。……今回はハーゲンダッツ、べた褒め。


ハーゲンダッツジャパンの公式サイトより

 でも本当は、これまで題材に取り上げさせていただいた企業はどこもそのど真ん中のビジネスでは、「ターゲットを定め」「価値を定め」「それを具現化する」というSTP(セグメンテーション、ターゲッティング、ポジショニング)+4Pを、本気でトコトン突き詰めている。スターバックス然り。吉野家然り。マクドナルド然り。各社とも、そのど真ん中のビジネスでは、ガッチリこれをやっている。

 では。彼らは、誰に対し・どんな価値を・どう具現化していると思う? 是非考えてみてもらいたい。そのとき、マーケティングを学んでいる者ならいきなり「打ち手」(4P)から語るのではダメ。「価値」(STPより抽出されるコンセプト)を踏まえて、打ち手(4P)を語るべき。

 目に見える4Pをいろいろ言うのではなく、STPに基づくコンセプト(価値)を見据えて価値設定の上手さや、価値(STP)と打ち手(4P)のつながりの強さをちゃんと語る。誰に対し・どんな価値を・どう具現化しているのか。日常の身の回りの素敵な題材を、このSTP+4Pの流れで語る習慣を作ることこそが、どんな座学よりもパワフルな、マーケの腕が磨きあげられる時間なのである。

※ちなみに昨年、グロービス受講生の自主的なマーケティング勉強会があり、僕も同席させてもらった。その日の題材の1つが、このハーゲンダッツ「ドルチェ」。僕自身も皆さんの話で学び、楽しい勉強会だったことを思い出す。ハーゲンダッツの素晴らしさを、改めて感じられた機会でした。あの時のクラスメンバーの皆さん、同社のAさん、ありがとう。

小西賢明(こにし・けんめい)

東京大学経済学部卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニー、アクセンチュア戦略グループなどの戦略系コンサルティングファームにおいて、様々な業界企業に対しての多岐に渡る経営課題の解決に従事。03年より独立。ワイズ・ストラテジック・パートナーズ代表となる。

現在はマーケティング分野・新規事業分野を中心に、プロジェクト支援や企業アドバイザーなどのコンサルティング業務を展開。と同時に、ビジネスリーダー育成のための研修・講演も多く手がける。(主には、企業内大学における自社課題解決や、論理思考・経営戦略・マーケティング・ビジネスプラン・ビジネスプレゼンテーション等)。グロービスのパートナー・ファカルティでもある。


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