初めての不動産売買(1)――中古と新築、どちらがいいのか?:保田隆明の時事日想
「自分の家は生涯賃貸とする。なぜならそれが経済的に合理的だから」そう考えていた筆者だが、いくつかのきっかけで家を購入し、売却した。初めて不動産売買を経験した筆者の“気付き”を、改めて振り返ってみる。
著者プロフィール:保田隆明
外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」、「投資銀行時代、ニッポン企業の何が変わったのか?」「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「なぜ株式投資はもうからないのか」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou
先週、マンションの売却を無事に終えた。ここ半年ほどは、日本の不動産市場が明らかに弱気に転じており、果たして希望するような価格帯で無事に売却できるだろうか、とヤキモキしていたので、売却代金の入金を確認して胸をなでおろした。
売却したマンションは2006年11月に購入した新築マンションで、完成して物件の引き渡しが行われたのが2007年の年末。一度もそこに住むことなく、未入居物件のまま今回売却を行った。不動産を買うことも売ることも私にとっては初めての経験だったので、そこでの発見や気づきを本コラムでシェアさせていただくことにする。今後マイホームの購入や売却をお考えの方の参考になれば幸いである。
→初めての不動産売買(1)――中古と新築、どちらがいいのか?(本記事)
→初めての不動産売買(2)――新築マンションに住まずに売ることになったワケ
→初めての不動産売買(3)――マンション売却なんて、もうこりごりだ
そもそもなぜマイホームの購入を?
実は私は、自分の家は生涯賃貸とし、マイホームは絶対に購入しないつもりでいた。それが経済的に合理的だからだ。住みたいと思う家の間取りや場所は自分の人生のステージに応じて変化していくはずだし、マイホームを購入して多額の借金を抱えれば、おのずと収入の安定する仕事を選択せざるを得なくなり、守りの人生となるのが嫌だったからである。また、自分の資産が不動産に偏りすぎるというのもリスクだと思っていた。さらには、マイホームを持つと賃貸時代には払わなかった不動産に関する税金なども納めなくてはならない。それらの思いは今でもまったく変わらない。しかし、そんな私がマイホームを購入してしまったのである。
きっかけはと言えば、まず1つは結婚である。住宅ローンの性質として、夫が死亡してしまった場合、残された妻は住宅ローンの返済を免除されるというものがある(ローンを組むときに、団体信用生命保険に入ることが条件だが)。これにより、とりあえずローンで家を購入しておけば、妻と子供は生涯住む場所には困らない。夫としては、妻子に「とりあえず生涯住む場所はある」という状態を提供することは重要だなと思ったわけだ。もっとも、キチンと保険料も支払う必要があるので、別にローンがタダになるわけではないのであるが、一般の生命保険に入って受け取った保険金をローンの支払いに充てるのと、住宅ローンに付随する保険に入ってローンが免除されるのとでは、後者の方が心理的には得をした気になる。
もう1つの、そして最大の理由は、子供が生まれたことだった。今住んでいる家は55平方メートルの2LKD。妻と2人で住むには問題ないが、子供が走り回ることを考えるともう少し広い家が必要だ。しかし、日本では賃貸住宅の多くは20平方メートル〜50平方メートルぐらいまでで、家族向けのものは数が非常に少ない。おのずと購入を検討せざるを得ない。
中古物件か新築物件か
そういった経緯でマイホームの購入の検討を始めたのだが、最初に検討したのは「新築物件か中古物件か」である。日本では新築物件が人気だが、それは裏を返せば中古物件はお手ごろな価格で購入ができるということでもある。そこで中古物件の検討から始めたのだが、購入を検討し始めたのは2006年。不動産価格はその数年前から徐々に上がっており、中古物件は新築分譲時よりも高い値段になっていた。もともとの新築分譲時の値段が安すぎたのかもしれないが、中古物件を新築時よりも高い値段で買うのは心理的に大きな抵抗があった。
また中古物件を購入すると、物件価格の3%に相当する不動産仲介手数料が発生する。新築物件ではこれは発生しない。もっとも、新築物件の場合は、この手数料分も含んだ価格で売却されていると考えるべきなのだろうが、手数料が上乗せされるのと、販売価格に含まれているのでは、上乗せされるほうが損をした気持ちになる。
いざ、中古物件の内見へ
実際にいくつか中古物件の内見にも行ってみたのだが、多くの物件はまだ居住中のものである。家は居住スペースもさることながら、収納スペースが重要だ。しかし、人様の家で台所の戸棚、洗面所の物入れ、寝室のクローゼットなどを開け回ってチェックするのはさすがに遠慮がある。居住者は「どうぞ気が済むまでゆっくり見てください。クローゼットなど、どこを開けてもらっても構いません」とおっしゃってくれるのだが、なかなか落ち着かない。せめてこちらが物件を見る間だけでも、居住者は外出している方が物件を売却できる可能性は高くなるのではないだろうか。どの中古物件を見た後も、「心ゆくまでに物件を見尽くしていない」という心理面での消化不良を起こすこととなった。
中古物件の購入にあたっては、こういう心理面のマイナスの影響が大きく働き、経済合理性で物事を判断できなくなってしまう。
モデルルームを見に行くと“買う気”になってしまう理由
一方の新築物件。こちらはモデルルームで購入を検討することになるが、モデルルームは当然だが購入者の買い意欲を掻き立てるような工夫がふんだんに凝らされている。素敵な家具や調度品が置いてあるのは当然のこととして、見落としがちなのは照明のダマシ効果だ。とにかく明るい室内にいると、それだけでその物件が欲しくなってしまう。
販売側の演出以外にも、モデルルームには効果がある。一番大きな効果は、モデルルームにやってくる自分以外の来場者の存在だ。「こんなにたくさんの人が購入を検討しているのなら、うちも買わなきゃ」という気持ちになるのである。
中古物件の場合は、内見するときは自分たちだけなので、他の購入候補者の存在は見えない。したがって、いくら不動産業者が「他にも検討している人がいる」と言ったところで、本当はあまり人気のない物件なのではないか? と勘繰ってしまう。しかし、新築物件の場合は直に他の購入候補者を見ることで「ああ、この物件は人気物件なのだな」と“誤解”してしまうのだ。そしてモデルルームを見終わったときには「この物件を買いたい!」と思ってしまうわけである。
しかし考えてみれば、人生で一番大きな買い物を、現物を見ることなくモデルルームだけで判断して購入するというのは非常にリスクが高い。モデルルームは代表的な間取り1つか2つしか存在せず、そこから自分が実際に購入する物件をこちらが勝手に想像することになる。私が新築物件の購入に後ろ向きだった最大の理由もそこにあった。しかし、いざモデルルームを訪問すると、そういうネガティブな思いは吹き飛んでしまうのだから、人間の理性や合理的判断なんて脆いものである。
次回は購入時の経験談、次々回は売却時の経験談を書いていく予定だ。
→初めての不動産売買(1)――中古と新築、どちらがいいのか?(本記事)
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