不思議な動きをしたクレイフィッシュの株価、その謎に迫る:財務で読む気になる数字(2/2 ページ)
ITバブルの絶頂期に日米同時上場という快挙を果たしたクレイフィッシュ(e-まちタウン)。しかしITバブル崩壊とともに株価は急落し、時価総額が現預金より少ない現象が起きた。クレイフィッシュ株の値動きはファイナンス理論から見ても興味深く、改めて検証してみた。
理論上は企業価値が変動しない状況だが現実には市場の評価は上昇する場合も
クレイフィッシュで起こった企業価値の変動は、ファイナンスの理論から見れば、とても興味深い現象だ。
なぜなら、ファイナンス理論では、自社株買いや増配は、企業価値や株価の上昇にはつながらないとされているからである。自社株買いは、株主の資金を株主に返還するだけなので、株価は上昇しない。増配をしても、株価は配当の金額だけ下落する。例外は、配当支払いや自社買いを借入金で行った場合で、借入金の節税効果によって企業価値が上昇するので株価は上昇する。このほか株価の上昇がありうるのは、増配や自社株買いを、企業経営者としての自社の将来収益に対する自信の現れと、投資家や株主が判断した場合だ。これらの前提には、経営者が健全に企業を運営し投資を行うと見られていることがある。
しかし現実には、クレイフィッシュに限らず、豊富な現預金を持った会社が自社株買いや大幅な増配を発表したことで株価が上昇するケースは散見される。仮に100億円の現預金があったとしても、経営者の資質に懸念がある企業の場合、「多額の現預金が必ずしも適切でない投資に費やされ企業価値を毀損してしまう」リスクが高いことから、市場は100億円の現金について現在価値は100億円以下だと評価する。自社株買いや増配によって、その現金が経営者のコントロールの及ばない会社外部に流出することになれば、100億円の現金はまたもとの100億円の評価額に回復する。これは、現金がそれまでの低い評価額から本来の評価額に戻っただけに過ぎず、企業価値が増加したのではない。企業価値の毀損が修復され、本来の価値に戻ったと見るべきであろう。
経営者は株主から会社経営の委託を受けているが、経営者は必ずしも株主の意向に従って、企業価値向上にまい進するとは限らない。では、経営者の利害と株主の利害が相反しないためにはどのような方法があるのか――。これについては、コーポレートガバナンスに関ってくる話であり、別の回に詳しく解説する。
次回は、企業価値を高める手法について、考察していきたい。
斎藤忠久(Tadahisa Saito)
東京外国語大学英米語学科(国際関係専修)卒業後フランス・リヨン大学経済学部留学、シカゴ大学にてMBA(High Honors)修了。富士銀行(現在のみずほフィナンシャルグループ)を経て、富士ナショナルシティ・コンサルティング(現在のみずほ総合研究所)に出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。その後、ナカミチにて経営企画、海外営業、営業業務、経理・財務等々の幅広い業務分野を担当、取締役経理部長兼経営企画室長を経て米国持ち株子会社にて副社長兼CFOを歴任。
その後、米国通信系のベンチャー企業であるパケットビデオ社で国際財務担当上級副社長として日本法人の設立・立上、日本法人の代表取締役社長を務めた後、エンターテインメント系コンテンツのベンチャー企業である株式会社アットマークの専務取締役を経て、現在エムティーアイ(JASDAQ上場)取締役兼執行役員専務、コーポレート・サービス本部長。
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