5分で分かる正しい会社の辞め方:山崎元の時事日想(2/2 ページ)
「早くこの会社を辞めたい」と思っていたビジネスパーソンにとって、転職先が決まればついつい“うかれがち”になるもの。しかし、退職の意思を伝える順番など、転職の際に注意すべきことは意外と多い。その注意すべき点とは……?
退職するまでのモチベーション維持が難しい
転職の経緯や辞めていく会社に対する意見などは、はっきり述べるのがいいと思う。意見は他人に言ってこそ価値がある。現在の職場に全く何の不満もなく転職を決めることは稀だろう。残った人のためになることなら、言うべき事があればはっきり言うのが「いいこと」。案外、難しいのは、転職を決めてから退職する日までのモチベーションの維持だ。
転職活動がうまくいきそうになったころから、現在の勤め先及び自分の仕事から、「気持ち」が離れて行くことが多い。これは、自然な感情なので仕方がない。後にも述べるように、一番大切なことは、次の会社にいいコンディションで移ることなので、現在の会社に過剰なこだわりを持たないことが大切だ。
しかし冒頭でも述べたように、退職までの日々は後々まで記憶に残ることが多い。会社や第三者の立場からではなく、あくまでも「自分にとって」という観点で捉えるべき問題だが、その会社での仕事がどんな意味を持つものだったかという点の総括をすることには意味がある。
自分の仕事が「途中」あるいは「やり残し」になることはやむを得ないが、プロとしてのプライドを持って、必要十分かつ効率的な引き継ぎ手順を考えて、実行すべきだ。その際に、「自分はこの会社で何をしたのか」、「この会社の自分にとっての意味は何だった」と問うことは有意義だし、最後の仕事の質を落とさないためのモチベーションになるだろう。ただし、この「意味のある何か」の大半は、これまでの仕事の経緯の中にあるのだろうから、最後の数週間で簡単にできるものではない。それでも最後に一手間を加えることで、会社にとっても、自分にとっても「意味のある」仕事にできるものがあるのではないだろうか。
ただし、重要なのはあくまでも次の職場に良いコンディションで移ることだ。例えば、次の仕事のために何らかの勉強が必要なら、今の職場でサービス的な時間と労力を使うことよりも、次の職場のための準備を優先させるべき。これは、退職手続きに過剰な思い入れを持たないためにも重要な心得だと思う。
時々問題になるのが、現在の職場から何を持ち出すかだ。仕事で使ったファイルや、自分が書いた書類なども含めて、会社で使っていたものは、原則として会社のもの。近年のコンプライアンス流行りで、こうした点に関しては、昔よりも厳格になっているから、気を付けたい。
特にもめることが多いのは、顧客に関連するデータ。営業マンの場合、顧客の名刺は個人的な財産でもあるが、厳密には会社の財産だ。日頃から顧客のデータに関しては、個人用のバックアップを取っておくくらいの周到さが必要だし、それがまだなら、退職の意思を表明する前にデータを確保しておこう。
庶務担当者との関係は重要
辞めて行く会社の人々との今後の人間関係については、1人1人について丁寧に判断すべきだ。あくまでも、個人と個人として今後も付き合いたいかどうかが重要。仮に短期間であっても、同じ職場で一緒に働いた同僚とは、「共通の話題」だけでなく「共通の経験」があるので、将来も深い友達でいられる可能性がある。一方、仕事上は重要であっても、個人としてツマラナイ相手もいる。地位や部署ではなく、個人を評価しよう(もちろん、自分が評価される側でもあることを忘れずに)。
案外重要なのが、会社の庶務の担当者(多くは女性だ)との関係だ。勤め先が変わっても、元の会社に連絡する顧客や友人がしばらくはいるし、郵便物なども来ることがある。こうした際に、いいタイミングで連絡をもらえるかどうかが、人付き合いや、場合によっては今後のビジネスにも影響する。日頃の行いが大切であり、急に態度を変えてもダメかもしれないが、庶務担当者のこれまでの仕事に対して「感謝の気持ち」を何らかの形で伝えることは、有効な投資である場合が多い。
最後に、有給休暇のほどほどの消化も重要であることをお伝えしておく。仕事から気持ちが離れてしまうほど休むのはお勧めできないが、有給休暇を取って一息入れることも考えておこう。次の会社に移ると、新しい環境への適応に緊張するから、休んで、鋭気を養っておくのだ。
転職が決まって、次の会社に入る前の時期は、次の職場への希望が膨らんでいるし、自分の心の中で現職場のあれこれに決着を付けているはずだから、「気持ちのいい時間」のはず。この時間を十分に味わって、次の職場に気分良く旅立とう。
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