ドイツは本気である。そう感じさせた再生可能エネルギーのシナリオ:松田雅央の時事日想(2/2 ページ)
ドイツの環境分野における最重要テーマといえば、CO2の排出削減だ。環境省は「2030年までに総電力に占める再生可能エネルギー電力の割合を50%に」という目標を掲げており、中でも海上の風力発電に期待を寄せている。
最大の伸びは海上の風力発電
ドイツにおける再生可能エネルギー増加の勢いは驚異的ですらある。
再生可能エネルギー電力のシナリオをみると、今後、水力はほとんど変化しないものの、風力、バイオマス、太陽光とも大幅に増加し、20年ころからは地熱の利用も本格化する。シナリオは幾つかあるが、うまく行けば2020年には総電力に占める割合の30.4%、そして2050年には50%を達成できるというのがドイツの予想である。
バイオマスは今後10年で倍増するが、その後は伸びにブレーキがかかりそうだ。バイオマスの原料は木材・エネルギー作物(トウモロコシなど)・家畜の糞尿・生ゴミといったもので国内にまだ「伸びしろ」が残されているものの、原料の絶対量が限られているため比較的早い時期に頭打ちとなる。
とりわけ伸びが大きいのは風力発電、それも海上の風力発電だ。撤退を決めた原子力発電に代わる電源として期待されるのがこれで、景観問題によりブレーキのかかっている陸上の風力発電開発とは異なり建設可能地域の広さという好条件がある。
2020年ころからは「ヨーロッパ諸国からの購入電力」も登場する。これはほかのヨーロッパ諸国で生産された再生可能エネルギー電力を購入するスタイルで、例えばドイツより日射量が格段に多いスペインの太陽光電力などが考えられる。
再生可能エネルギー電力のシナリオ、縦軸:発電量(テラWh/年)、横軸:年。紺色:水力、薄い水色:風力(地上)、濃い水色:風力(海上)、緑色:バイオマス、黄色:太陽光、赤色:地熱、オレンジ色:ヨーロッパ諸国からの購入分(出典:Erneuerbare-Energie-Leitstudie 2008, UMWELT Nr.12/2008, BMU)
今後も成長が期待されるグリーンエネルギー・ビジネス
再生可能エネルギー(発電と熱利用)への投資シナリオ(特に2008年から2020年にかけて)を見ると、風力発電・太陽熱・地熱は増加、太陽光発電は減少、水力・バイオマスは横ばいという傾向が浮かぶ。
風力発電への投資拡大は海上の風車建設増加を見込んだもの。対する太陽光発電への投資はこれまでの急激な増加から一転するが、これは太陽光発電ブームが一段落したことに加え、太陽電池の価格低下の影響による。
ドイツが官民挙げてこれほど再生可能エネルギーに力を入れるのは、気候保護だけでなくグリーンエネルギービジネスとしてうま味があるからにほかならない。そこにはエコロジーとエコノミーの両立を目指し、再生可能エネルギー分野で世界のトップを走り続けようとするドイツの強い野心がある。ほんの数年前まで「ドイツ規模の国で再生可能エネルギー電力50%など荒唐無稽」と懐疑的に見られていた状況が嘘のようだ。ドイツは本気である。
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