「ひと言でいうと“タフ”」――伊東孝紳氏のホンダ社長内定会見を(ほぼ)完全収録(3/3 ページ)
本田技研工業は2月23日、伊東孝紳専務が社長に昇格し、福井威夫社長が取締役相談役に退く人事を内定したと発表した。福井威夫社長と伊東孝紳専務が臨んだ社長内定会見の様子をお伝えする。
「買って喜び」「売って喜び」「創って喜ぶ」
――社長になって将来どういう会社にしたいと思われていますか?
伊東 今、私が思うところで言いますと、私どもの言葉に「買って喜び」「売って喜び」「創って喜ぶ」というのがあるのですが、その具現化に尽きると思います。お客さまがホンダの製品を買って「非常に良かった、楽しい」(と喜んでもらえるもの)、そういうものを売ることが(従業員の)喜びにつながり、またそういうのを開発したり、生産したりすることはとっても楽しいぞ(とエンジニアが喜ぶ)、そういう喜びの輪が回るような会社が理想だと思います。
――新社長となって一番これが課題だというものがあれば具体的に教えてください。
伊東 一番大事なのはやはり「お客様が求めている商品、技術をいかにすばやく投入するか」ということに尽きると思います。インサイトを世の中に出しまして、非常に好評を博しているわけですが、「燃費や環境性能に優れた車を比較的お求めやすい価格で提供する」というのはもともとホンダの持ち技だと思います。この方向性はまったく確かなものであって、「これをいかに強化していくか、もっとスピードを上げていくか」ということが最大の私の責務だと思っております。
――今のホンダに足りないものは何でしょうか?
伊東 今、若干意気消沈してるかなと思います。もう一度その(「買って喜び」「売って喜び」「創って喜ぶ」)理念に立ち返って、みんな楽しくやろうよとモチベーションを上げて頑張ることだとが大事だと思います。
――逆にホンダの強みを具体的に教えてください?
伊東 福井さんを見れば分かるように、そんな偉ぶっているような方ではないし、非常に現場に近い方でもあります。全員「もの作りが好きだ、クルマが好きだ」(という気持ちを持っていて)、現場に近付いて一緒に考えていける、そういうカルチャーがあるというのはこの会社の絶対的な強みだと思います。
――F1撤退などのリストラについては他社に先駆けてやってらっしゃいますが、今後のリストラ策についてはどうお考えですか?
伊東 100年に1度(の危機)ということで、大変な時期だと思っています。希望で言えば「来期下期に少しでも市場に回復のきざしが見えてくれればな」と思うものの、それに頼っているとひっくり返るというぐらいのレベルの厳しさで考えています。したがって、リストラという言葉自体はあまり好きではないですが、もっと経営資源の集中ですとか選択ですとか、いろいろな意味でのアクションはまだまだ考えていかなくてはならないと思っています。
――ここだけは変えたいというところはありますか?
伊東 ホンダは世の中に敏感(な会社)で、「すばやい行動でいかにお客さまに早く喜びを還元するか」を得意としてきたはずなので、あえて言うならば、そこに若干スローなところがあるとも認識しています。それは技術開発でもあり、組織上のいろんなつながりでもあったりするかもしれません。
「これだけ世の中が変化する時に、それに先んじて動ける会社でないと永続性は望めない」ということで、「感受性があって行動力がある会社にしたい」というのが私の思いです。
――ホンダはモータースポーツにどう取り組んでいかれるかを教えてください。
伊東 F1にせよ、MotoGPの参加の仕方にせよ、シュリンク気味であるということは誠に残念であるという認識です。モビリティに関わる者として、そうしたレース活動はチャレンジングなものであり、楽しいものであるはずです。企業の体力として今、若干風邪気味ですので、早くこの風邪を完治させて、もう1度その喜びにまい進したいと考えています。
――ホンダがどんな魅力あるクルマを世の中に送り出していきたいかというイメージを教えてください。
伊東 国内マーケットが若干芳しくないというのは、「お客さまがクルマを必要としない」というわけではないと私は思っています。「買いたいな」と思っていただけるようなものを出せない企業側の責任というのは、やはりあると思います。
これはできるできないの問題ではないですが、例えば燃費が今の倍、3倍ぐらい良いとか、お客さんが10人も20人も乗れる小さいクルマとか、今のクルマの決まった形に対して、新たな発見を提供できるようなこと(をすることが大事だ)と思います。
「通り一遍のクルマを出せば売れる」という安易なサイクルで自動車産業も回っていたかと思いまして、「今、お客さまがどういうことを望んでいるだろう」ということをもう1回真摯(しんし)に勉強させていただくことがまず肝要だととらえています。
苦境を明るさで切り抜けられるか
緊張していたのか最初は硬い表情だったものの、徐々に力強い言葉で語り出した伊東氏。自動車産業を取り巻く状況は非常に厳しいものがあるが、確かな未来を感じさせるような会見だった。
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