電気・ガス・水道まですべてお任せ!――ドイツのエネルギー・水道公社:松田雅央の時事日想(2/2 ページ)
ドイツでは電気・ガス・水道のいずれも地元のエネルギー・水道公社が管轄し、請求も一元化されている。こうしたシステムを採用するメリットは何なのだろうか?
エネルギー・インフラ整備の無駄を省く
ただし、電力供給の上流部分にある火力(下写真)・原子力・水力といった発電所は公社ではなく、もっと広域の電力会社が運営している。主な電力会社は全国に数社あり、日本ならば東京電力、関西電力といった会社に相当する(ガスについても仕組みは同様)。このような「発電事業と供給事業の分割」がドイツの特徴だ。
では、こういう仕組みは社会にどういう影響を及ぼすのか。
日本ならば電力会社とガス会社は住宅の「オール電化」VS.「お得なガスの利用」のような競争を展開しているが、公社が両方を手がけるドイツではこういったシェア争いに意味はない。それよりも、地域温水供給を含め社会全体のエネルギー供給がどうあるべきかという「エネルギーのベストミックス」こそが重要テーマとなる。例えば、40万人の人口を抱える筆者の住むカールスルーエ市のエネルギー・水道公社は、ガス利用と地域熱供給を重視し、それらが重複しないように計画を調整しながら無駄のないエネルギー・インフラ整備を続けている。
1990年代に進んだ民営化
こういった仕組みには弊害もある。昔の公社は自治体の100%出資、早い話が「お役所」であり事業効率は高くなかった。このような問題からエネルギー・水道公社は1990年代に全国で民営化が進み、例えば現在のカールスルーエ市エネルギー・水道公社は、自治体が70%、電力会社が20%、ガス会社が10%資本参加する有限会社となっている。
事業の性質上、実質的な経営権は自治体が握っているため筆者は公社と呼んでいるが、「(制限はあっても)独占から自由競争へ」、「自治体の丸抱えから独立採算へ」とかじを切った意味は小さくない。
電力自由化がエコを促進
電力に関しては自由化が進んでおり、消費者は全国どの電力会社とでも契約ができる。例えるならば「関西電力の料金が安いので、千葉に住んでいながら千葉市エネルギー・水道公社とではなく、関西電力と契約する」ようなことができてしまうのだ。この話は少しややこしいのだが「消費者の『乗り換え』は公社にとって顧客の損失である」と理解していただきたい。
ただ、実際のところは全国の電力会社・公社間で電力価格に極端な差はなく、大口消費者は別として価格差を理由に電力会社を変える小口消費者は少ないそうだ。逆に、少々割高なのを承知で再生可能エネルギー電力だけを供給する「グリーン電力会社」を選択する消費者が結構多い。大きなことはできなくとも、何か環境保全に役立ちたいという市民の心をつかむのだ。こういった市民にとっては多少の価格差より電力のエコ度の方が重要であり、公社もそういった市民意識を無視することはできない。次回は公社がどのようなエコに取り組んでいるのかをレポートしよう。
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