2009年夏モデル発表――“鉄壁”ドコモの強さと課題:神尾寿のMobile+Views(3/3 ページ)
2009年夏モデルの18機種を発表したドコモ。4シリーズそれぞれのコンセプトに合った端末をそろえ、日本初のAndroidケータイも投入。iモードブラウザの機能を大幅に拡張するなど、万全の体制で夏商戦に挑む。ドコモの夏商戦に向けた戦略のポイントと課題を探った。
課題の残るPROシリーズ
さて、ここまであえて触れなかった話題がある。そう、国内初のAndroid搭載端末「HT-03A」を含む、今期のPROシリーズだ。
ドコモにとってPROシリーズは、次の10年でグローバルなプラットフォーム環境を、どのように“ドコモ市場”に組み込んでいくかという重要な位置づけを担っている。今回の発表会でも、社長である山田氏みずからAndroidとHT-03Aを投入する重要性を語るなど、ドコモとして注力していることは間違いない。しかし、その一方で、ドコモのスマートフォン分野に対する取り組みに、課題が多く残っているのも事実だ。
その顕著なものが、“ドコモが出すからには”という独自性の構築だ。周知のとおり、AndroidやWindows Mobileの端末はグローバル仕様が前提になり、メーカーも数多くのキャリアに併売する。そのため、その内容が横並びになることは避けられない。であるならば、キャリアは独自のコンテンツやサービス、料金プランで独自性を打ち出さなければならないが、ドコモのPROシリーズにはその努力の跡がほとんど見られないのだ。誤解を恐れずにいえば、資金力と規模を背景に「調達して、出しただけ」だ。
翻って他キャリアを見れば、ソフトバンクモバイルはAppleのiPhone 3G導入にあたり、独自色の打ちだしに腐心した。当面はソフトバンクモバイルが専売であるにも関わらず、である。例えば、Yahoo!Japanの仕様をSafari向けに変えたり、ワンセグ視聴が可能な周辺機器の開発、法人向けのWebサービス構築、今年に入ってからは料金面でもキャンペーンを打ちだすなど、“ソフトバンクモバイルならでは”のさまざまな工夫を凝らしている。これはソフトバンクモバイルの社長である孫正義氏がiPhone 3G普及に熱心という理由も多分にあるだろうが、それ以上に、「キャリアがスマートフォンを売るならば、これまでの端末仕様での囲い込みに変わる“キャリアとしての独自性づくり”が重要である」という認識があるからだろう。
それらの観点からドコモのPROシリーズを見ると、やはり「出しただけ」の印象はぬぐえない。この点について、山田氏に問うたところ、「スマートフォンのよさは全世界で使える共通性にある。ドコモのアプリをどうするのか、スマートフォンにiモードを載せるか、というのはこれから議論が出てくるだろう」という回答だった。
先述したとおり、過去10年で構築した「iモードのエコシステム」はドコモにとって最大の武器であり、これをAndroidやWindows Mobileなど国際的なオープンプラットフォームに移植することは、ドコモならではの強力な訴求力になる。
iモードブラウザ上のコンテンツサービスはもちろん、iアプリやおサイフケータイ、iコンシェルなど、魅力的かつ強力なiモードのエコシステムが、AndroidやWindows Mobileのエコシステム上に展開されれば、それらのスマートフォンは日本市場の持つユニークなエコシステムの優位性と、国際的なプラットフォームやエコシステムのメリットを併せ持つ魅力的な「新たな1台目端末」になりえる。
キャリアは国内ローカル仕様端末の高コスト体質と運用性の低さから解放され、メーカーはグローバル市場での競争が実現する。ユーザーにとっても、国内ローカル仕様からグローバル仕様へのソフトランディングが実現すれば、これまでの利用環境を損なわずに端末価格が安くなり、端末の選択肢も増えるといったメリットが生じてくる。
ドコモは4シリーズ化以降、PROシリーズにも新端末を積極的に投入しており、そこは高く評価できる。しかし、スマートフォンが中心となるPROシリーズでは、新機種投入以上に重要になるのが、ドコモの持つiモード資産のマイグレーションと、この分野を普及・発展させるための戦略的な料金設定だ。この点についてのドコモの動きは、やや鈍いと言わざるを得ない。iPhone 3Gに対するソフトバンクモバイルのようなフットワークのよさと柔軟性を持ち、PROシリーズでも「ドコモならでは」の要素をいち早く構築する必要があるだろう。それがドコモの課題である。
このように課題はあるものの、全体的にみればドコモ夏商戦ラインナップの布陣は厚く、鉄壁と言ってもいい。iモードの進化でコンテンツ/サービス分野も大きく前進しており、他キャリアがMNPを通じてドコモのシェアを切り崩すのは困難を極めそうだ。
一方、ユーザーにとっては、今回の夏商戦モデルから採用された新たなiモード環境の魅力は大きい。昨年冬から投入されたiコンシェルのコンテンツが増えていることとあわせて、“新たなiモード”のために新機種を購入する価値は十分にあるだろう。
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著者プロフィール:神尾 寿(かみお・ひさし)
IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。2008年から日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを勤めている。
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