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どん底からスタートする思いとは――トヨタの豊田章男新社長就任後初会見を詳細レポート(5/5 ページ)

トヨタ自動車の豊田章男社長は6月25日、東京都江東区のMEGA WEBで6月23日の就任後初となる記者会見を開催した。2期連続の赤字を見込んでいるトヨタ自動車はどのように黒字化への道筋を描いているのだろうか。会見の模様を詳細にお伝えする。

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需要は「2〜3年で確実に回復していく」

――北米の新しい経営体制についてうかがわせてください。製造生産に一番近いところで管理監督されるのは新美副社長ですか? それとも稲葉良●(目へんに見)相談役ですか?

豊田 稲葉相談役は取締役になって、北米の統括会社TMA(トヨタ モーター ノース アメリカ)の社長、そして販売会社のTMS(トヨタ モーター セールス)の会長に任命され、現地駐在します。新美副社長は現地事業会社の製造の方の統括会社の会長に任命され、定席は日本です。ですから全体を見ていくのは新美副社長、そして現地の顔として渉外、広報、そして販売を中心に力を貸してもらうのが稲葉相談役という役割分担で考えていただければいいと思います。

――(建設中の)ミシシッピ工場の生産開始はいつですか?

豊田 ミシシッピ工場は経済状況が変化する時までは(建設作業)凍結ということで今考えています。それをアナウンスした時から現在まで、「そう(経済状況は)好転はしていない」と見ているので現在のところ再開は考えていません。

――プリウスは好調ですが、世界的に見ると300万台くらいの生産過剰があると思うのですが、これについてどういう対処をしていくのでしょうか?

新美 今、グループトータルのグローバルな生産能力は年間1000万台ほどです。自動車市場は今大変厳しい状況にありますが、「2〜3年で確実に回復していくだろう」と現時点では思っています。従って、市場が回復した際にその需要に着実に応えていくためにも、現在工場の閉鎖のようなことは考えていません。その代わりに、需要減少への対応としては、残業削減やシフトの変更という形で、都度対応している状況です。

――GM(ゼネラル・モーターズ)との関係で、NUMMI(トヨタとGMの合弁会社)についてはどうされるのでしょうか。

豊田 NUMMIの件については、現時点では(小型車の)ヴァイブの生産終了以外は一切何も決まっていないということが現在の状況です。

――「NUMMIについてまだ何も決まっていない」ということですが、社長はGMとのパートナーシップについてどう考えていらっしゃるのでしょうか?

豊田 GMという会社は1931年から世界一の自動車会社でした。私たちの会社は1937年に設立されています。(GMは)本当に長い間世界一のメーカーとして自動車業界を引っ張り、全世界の自動車メーカーにここまで伸びる余力を与え続けていただいたと思います。今、言えるのはそのくらいです。


GM公式Webサイト

クルマは道が作る

――日本ではプリウスが大ヒットしていますが、ハイブリッドの今後についてどうお考えですか?

内山田 我々は中期的に見ると、ハイブリッド化というのは大きな流れの1つだと思っているので、積極的にハイブリッド車のシリーズ展開を進めていこうと思っています。具体的な今後のプロジェクトについて、今日ここでご紹介できませんが積極的にやっていくということです。

 これまで2010年代のなるべく早い時期に(ハイブリッド車年間販売台数を)100万台にすると申していました。それを左右する部品であるバッテリー(の生産)については、2010年あたりに100万台というのが具体的な数字として見えるかどうかというところにまできています。

――レクサスブランドがちょっと元気がないように感じられるのですが、どう認識されていますか?

豊田 ブランドを作り上げるには時間がかかると思っています。レクサスは1989年に米国で立ち上げて以降、もう20年経っています。20年くらいの年月を経ると、米国ではブランドと言っていただくような価値が出てくるわけです。一方、日本ではまだ立ち上がったばかりです(2005年から展開)。ですから、レクサスブランドが日本においてどうだこうだというのを評価する段階はちょっとまだ早いと思っています。

――これからのエコカーの方向性についてのお考えをお聞かせください。

内山田 現在、脱ガソリン、ポストガソリンということでいろんな種類のエコカーが提案されてきていますが、我々もいろいろ研究して、今重点的に取り組んでいるハイブリッド技術はやはりメインストリームとして外せないのではないかと現時点では考えています。

 一方、燃料電池自動車や電気自動車もエコカーの形態としては考えられるわけです。しかし、現在ハイブリッドカーが持っているバッテリーの技術、モーターの技術、インバーターの技術は要素技術としてはすべて共通しています。ただ、100%すべてのクルマが同じわけではないので、そのほかの部分についてもぬかりのないように開発を進めていきたいと思います。

――先ほどの言葉の中で「運転する人が喜びを感じるクルマ、お客さまをとりこにするクルマを開発していきたい」とおっしゃっていましたが、具体的にそれはどのようなものですか? また、若い世代のクルマ離れが進んでいると言われていますが、それに対するどのような策をお考えなのでしょうか?

豊田 私は「クルマは道が作る」と思っています。欧州の道、米国の道、日本の道、そして中近東の道、それぞれの道があります。それぞれの道が違うがゆえに、そこで乗られるお客さまの思考も変わってくるわけです。ですから「運転をすることが楽しい」と言っても、その道によって運転の楽しさというものは変わっていくと思います。

 私たちは自動車という商品を作る中で、「A地点からB地点を単に移動するだけの手段にしたくはない」と思っています。ハンドルを握っているお客さまが自分の意思にそって、「ここで止まってみよう」「ここでアクセル踏んでみよう」「ここでブレーキ踏んでみよう」ということによってドライバーとクルマが良いパートナーになれる、そしていろんな道を運転する中でその道とクルマとドライバーが“会話”できるようなクルマというのが私にとって良いクルマと思っています。

 若い人たちのクルマ離れということがありますが、本当に若い方がクルマ離れしているのか、それとも私たちメーカーが若者から離れているのか、この辺をしっかりと検証していく必要があると思っています。

 私たちは国内市場活性化策として、私たちの商品とお客さまの距離を縮める活動をしてきました。具体的には「ドライブ王国」や「クルマニヨン」です。そういうものを介して感じたことですが、若者もクルマに興味を失っているわけではないということです。ただ、クルマと接する機会が減ってきていることは事実です。そんな中で私は、「クルマを介して楽しく遊んでいる僕がいる」「クルマってこんなに楽しい」と大人が示せば、きっと若者がそれに付いてきてくれるだろうと思っています。

ドライブ王国公式Webサイト(左)、クルマニヨン公式Webサイト(右)

内山田 ちょっと抽象的な話になるかもしれませんが、これからマーケットをさらに活性化していく、あるいは若者をもう一度クルマに戻そうする時、我々は単にいろんな性能を良くしたクルマを作るだけではダメだと思っています。大変広く言うと、クルマ文化とセットで商品を提供していくというぐらいのことを考えなければいけない。「何のことを言っているんだ」と思われるかもしれません。

 例えば今、トヨタで言いますとプリウスはお客さまから支持していただいているわけですが、これは単にクルマを作ったということだけではなくて、プリウスを通じて環境に対するメッセージ発信をお客さまと一緒にできる、これからの環境を考えなくてはいけないんだということを、お客さまがプリウスを買うことによってその自分の意見を表明できる。1つの文化を作って、我々がその考えと一緒になってプリウスという商品をセットで提供して、それをお客さまにご支持いただいた。

 こういうことをそこかしこでやれば、まだいくらでもチャンスはあるし、逆にやらないといけないのではないかと思います。今の若者離れを止めるためには、一番分かりやすいのは運転して楽しくなるようなクルマ(を提供すること)だと思うのですが、そのためには単に性能が良くて、運転が楽しいクルマだけではなくて、クルマに乗って健康になれるというようなクルマや、安全なクルマ、最近技術の進歩が著しいITS※の技術なんかも使って新しい今までにないようなクルマを使ってできるものが提案できるのではないかと考えています。

※ITS……Intelligent Transport Systems。情報通信技術を用いて人と道路と車両とを情報でネットワークすることにより、交通事故、渋滞などといった道路交通問題の解決を目的に構築する交通システム。
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