「スマートフォンが売れている」は正しいか?:神尾寿の時事日想(2/2 ページ)
売り上げのデータだけを見ていると、携帯電話市場全体が縮小する中、スマートフォン市場は順調に拡大しているように見える。しかし、本当に“スマートフォン”は売れているのだろうか? 筆者はその見方に2つの落とし穴があると指摘する。
拡大しているのは「iPhone市場」
この状況を端的に表したのが、GfK Japanが発表している携帯電話販売ランキングだろう。これは国内主要量販店の販売データを集計したものだが、このランキングにおいてiPhoneは常にトップ10内を占めている。
2009年7月と8月の夏商戦においては、ついに販売ランキングトップを「iPhone 3GS 32GB」が獲得し、並みいる日本メーカーの夏商戦モデルをねじ伏せた。しかも、iPhoneはグレード違いの16GB版が別集計されており、こちらもトップ10内に入っているのだ。事実上、夏商戦で一人勝ちをしたのはAppleの「iPhone 3GS」と言ってもいいだろう。GfK Japanのランキングデータにキャリアショップが含まれていないことを差し引いても、iPhoneは今夏の大ヒット商品になっている。
ソフトバンクモバイル幹部によると、「(iPhone 3Gが発売されていた)昨年よりも、今の方が断然売れていて、しかも売れ行きは右肩上がり。売れ筋のiPhone 3GS 32GBは出荷すればすぐに売れてしまい、都市部の店舗では品薄が続いている」という。
一方で、販売ランキングの中に見あたらないのが、iPhone以外のスマートフォンだ。今夏はNTTドコモもスマートフォン製品を積極的に市場投入し、国内初のAndroid搭載端末となったHTCの「HT-03A」や、Windows Mobile搭載の東芝の「T-01A」などが発売された。ドコモではこれらスマートフォンのラインアップを戦略商品と位置づけて、積極的なマーケティングを行ったのだが、結果的にはiPhone快進撃の後に続くことができなかった。
このように拡大するスマートフォン市場といっても、売れているのはiPhoneだけというのが実情なのである。しかもiPhoneは、ほかのスマートフォンに比べると、プロダクトやサービスのあり方からビジネスモデルまでまったく異色の存在だ。ユーザー層も異なる。
iPhoneは今年に入ってからF1層を中心とした女性ユーザーが増加し、利用者層が拡大している。ユーザー数という「量の拡大」だけでなく、多様なユーザー層が買い始めるという「質の変化」が起きているのだ。一方、ほかのスマートフォンはいまだに30代・男性が利用者層の中心だ。iPhoneと比較すると、一般層、とりわけ女性層への浸透がまったく進んでいない。
このようにiPhoneとほかのスマートフォンは、今のところ似て非なる存在だ。iPhone市場とスマートフォン市場を同一のものとしてとらえて規模の拡大を見ていると、マーケットの変化を読み誤るだろう。
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