爽健美茶ヒットの裏側――コカ・コーラのブランドマーケティング(2/2 ページ)
1990年代、茶系飲料市場で圧倒的なブランド力を誇っていたのがサントリー。出遅れていたコカ・コーラだが、「爽健美茶」の発売でたちまち状況を変化させた。爽健美茶を売り出すに当たって、どのようなマーケティングが行われたのだろうか。
爽健美茶の全国展開を決断
調査結果を見た魚谷氏は、爽健美茶の全国展開を決断します。
当初、全国展開の提案は、ボトラー各社の幹部会議では反対されたそうです。「福岡で売れているからといって、全国で売れるとは限らない。それよりウーロン茶を何とかしてほしい」というのが、販売の前線にいるボトラー社の願いだったのです。
しかし、魚谷氏はあきらめませんでした。爽健美茶を軸に茶系市場でのシェア拡大を図るマーケティングプランを練り、消費者だけでなく、ボトラー社の共感も得られるような広告作りに取り組んだのです。
そして、最終的に消費者やボトラー社の心を動かすことのできる「Extrinsic Value」(情緒、感性的価値)として固まったコンセプトは「女性の美の究極であるミロのビーナス」です。これは、「男性がうれしいことは何だ?」という問いを行ったジョージアと同様、「女性が最もうれしいことは何か?」という究極の問いに対する答えでした。
あなたは、爽健美茶の最初のコマーシャルを覚えていますか? 健康的な美しさがあふれる裸身の女性(こずえさん)が「はと麦、玄米、月見草、爽健美茶」とアカペラで唄うやつです。
この広告はボトラー社はもちろん、ターゲットの若い女性の心をとらえ、爽健美茶は発売当初から爆発的な売り上げを記録したヒット商品となりました。
面白いのは、当初コンビニでは「こんな漢方薬みたいなお茶は売れない」と言われて、店頭での販売を断られたことです。ウーロン茶がガンガン売れているのに、よく分からない新商品を置くスペースはないということだったようです。
しかし、CMオンエア後、自販機では飛ぶように売れていきます。そして、お客さんから「コンビニにはなぜ置いていないのか」という問い合わせが増えたため、全国発売2カ月後に、コンビニ側から同商品納入の依頼が来たのだそうです。
さて、女性ターゲットで始まった爽健美茶ですが、現在、利用者の半分は男性だそうです。男性も、健康的であること、また外見の美しさに気を配る人が増えたからでしょうね。実際、現在の商品のバリエーション、およびコマーシャルも、男性向け、女性向けそれぞれのバージョンが展開されていますよね。(松尾順)
関連記事
- 「ジョージア」復活の秘密とは?――コカ・コーラのブランドマーケティング
1990年代中ごろ、缶コーヒー市場で圧倒的なシェアを持っていたのがコカ・コーラ「ジョージア」。しかし、ブランド力ではライバルのサントリー「BOSS」に負けていたことから、コカ・コーラは広告戦略を大胆に切り替え、ブランド力トップの座も奪った。コカ・コーラはどんな戦略を採用したのだろうか。 - コカ・コーラのブランドマーケティング
名前の認知率が極めて高く、どんな色や味をしているのか誰でも知っているコカ・コーラ。しかし、毎年莫大なコストをかけて大々的な宣伝をしているのはなぜなのだろうか。魚谷雅彦著『こころを動かすマーケティング コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる』からその理由を読み取る。 - 人が動かない4つの理由
品川女子学院校長の漆(うるし)紫穂子氏が手がけた学校改革。改革に際して、漆氏が気付いた「人が動かない4つの理由」とは何なのか。そして、動かすために漆氏はどうしたのかを紹介する。
関連リンク
Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.