地方自治体の支出は削減できるのか:坂村宗彦の地方財政から格差を見る(3/3 ページ)
地方自治体が抱える借金。かつては「無駄な公共事業を乱発したことが借金拡大の原因となった」と言われてきたが、現在はそうした公共事業は行われなくなってきている。それにもかかわらず、借金返済のノルマが減らないのはどうしてなのだろうか。
公共事業を削れば財政再建できるのか
ピーク時に30兆円あった投資的経費(普通建設事業費)は、いまや半分の水準まで絞られました。これをさらに削れば何が起きるでしょうか。
例えば、学校や病院を建設・改修することはできなくなり、特に小中学校は統廃合を急速に進めざるを得なくなる可能性があります。今はレアケースですが、中学校に通うために自宅から離れ、寄宿舎に暮らすことが強いられることもありえます。また、病院も経営上の問題がたくさんあるのですが、これも統廃合が進むでしょう。
また、地方の道路や橋の中には、すでに老朽化して通行が危ない箇所もあると言われていますが、その補修や更新ができなくなって、通行止めという事態も生じるでしょう。経営効率が悪いところでは、下水道などのインフラ整備が中断する可能性もあります。
つまり、「国土の均衡ある発展」を旗印に進めてきた政策的なインフラ整備ができなくなることで、当然視されてきた行政サービスの質が低下し、長期的には居住することも困難になるということです。例えば、子どもが通う小中学校が遠隔地になって通学できない、病気になってもかかる病院がないということになり、居住をあきらめて転居をせまられることになるかもしれません。それを分かった上で公共事業費を削減できるか、これはかなり難しい選択だと思います。
投資的経費以外の支出を削れるでしょうか。例えば近年は生活保護費が大きく増加し、一部の自治体の財政を相当圧迫しています。これが削減される(認定を厳しくする)ということをやれば、生活困窮者が激増し派遣村の騒ぎどころではなくなるでしょう。公務員の人件費を削るのでしょうか。自治体によってはこれもすでに始まっており、10%から20%の年収減にみまわれているところもあります。これ以上、どこまで削れるでしょうか。
これからの地方財政の課題は「無駄を削って財政再建」ではないと思います。無駄は確かにあると思いますが、おそらくは地方全体の歳出約83兆円に対して数百億円の単位でしょう。絶対額からすれば1%にはるかに届かない水準だと思います(これが多額にのぼっているのなら財務省が見逃すはずがないと思います)。
それを分かった上で削りにくい歳出をさらに削りにかかるのか、あるいは削ることで財政再建することをあきらめ増税するのか、その二者択一が迫られているのです。あるいは、この2つのミックスによって解決されていくのかもしれません。増税しつつ歳出を減らすということです。
この結論がどう出るかによって、地方財政にとって東京などの裕福な自治体はどういう位置付けになるのかが決まると思います。極論と言われるかもしれませんが、東京から生みだされる税収は「東京のものである」と言った瞬間に、地方財政は大幅な歳出削減が必須となります。「国税を中心とする東京の税収を、すべてではないが地方の共通の財源に充当する」ということになれば、いずれ東京都の税収を国税に回す話が真剣に検討されるようになるでしょう。
いずれこうした、誰にとってもハッピーになるとは限らない議論を始めなければならないところにきていると思います。民主党政権の財政規模拡大の動きを見ていると、この話はいよいよ待ったなしだと思います。
この連載は、編集部の予想を超えた数の方々に読んでいただいていると聞きました。そのご期待に添えたかは分かりませんが、3回にわたって私の力の届く範囲で地方財政の問題点をお伝えしたつもりです。ぜひみなさんにもこうした問題を知っていただければと思います。
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