Googleのユーザー至上主義から学ぶ企業プロモーションの在り方:デジタルPRの仕掛け方(3/3 ページ)
iPadやiPhoneといったモバイル端末の普及は、企業のプロモーションの在り方を大きく変える可能性がある。Googleや味の素が実現した「消費者視点のコンテンツの発想」からは、企業プロモーションの進化形が見えてくる。
「スープ飯」に見る味の素のプロモーション戦略
味の素が2009年に展開した「クノール ふんわりたまごスープ」のプロモーション戦略は、徹底的に情報の質にこだわった事例である。
発売から十数年が経つ定番商品であるクノール ふんわりたまごスープは、商品自体のニュース性が乏しい。味の素が消費者の関心を獲得するには、価格や機能ではなく、新しい「価値観」の提案によるニュースを作り出す必要があった。
その答えが「スープ飯」である。スープ飯とは、インスタントスープを活用して残り物のご飯を手軽かつ華やかな料理に変えるというコンセプトだ。味の素は、スープ飯という料理スタイルを訴求するプロモーション戦略を展開した。
では、なぜスープ飯だったのか。それはこのプロモーションを仕掛けようとしていた2008年末から2009年の時流が関係している。当時、「たまごかけご飯」や「ねこまんま」といった「楽飯ブーム」が一種のトレンドとなっていた。そこで、スープ飯を次の「楽飯」に位置付けるというコンセプトが生まれた。
別の側面もある。リーマンショックに端を発する景気後退で、消費者の節約志向が高まっていたことだ。「楽しく家計を節約できる解決策」を世の中に広めるためのコンセプトが、スープ飯だった。
味の素のプロモーション戦略のポイントは、クノール ふんわりたまごスープが持っていた「たまごスープのおいしさを伝えたい」という企業視点のメッセージを、「スープ飯は手軽に楽しく家計を節約できる」という消費者視点に基づいたメッセージに変えたことだ。
事実ベースでブームを作り出す
デジタルPRのコンセプト設定後は、データや実績といった具体的な事実(ファクト)が重要になってくる。なぜなら、メディアがニュースとして取り扱うための判断材料は、事実の充実にあるからだ。そこで味の素では、利用者へのアンケート調査、レシピ検索サイト「COOKPAD」と協力したスープ飯のレシピコンテストの開催、有名な料理家への働き掛けを行い、スープ飯ブームの事実を集めていった。
こうしてスープ飯のブームを作り出し、各メディアにプロモーションを展開した。ファンの取り込みを狙いとしたキャンペーンサイトも開設した。半年間のプロモーションの成果として、複数の情報番組やYahoo!のニューストピックにスープ飯のニュースが取り上げられた。2009年上期(4〜9月)のたまごスープ類の販売実績が前年比110%になるというマーケティング効果も得られた。
味の素のプロモーションが示唆するのは、消費者視点にこだわったプロモーションコンセプトの作成が、結果的に情報の「質」を高めていることだ。これはGoogleのキャンペーンにも共通する部分であり、デジタルPRを実施するための土台となる。
次回はデジタルPRのフレームワークを考えてみる。
著者プロフィール:野崎耕司(のざき こうじ)
ビルコム タッチパッド端末事業部ディレクター。宮城大学大学院事業構想研究科卒。2006年1月ビルコムに入社し、コンサルティング、不動産、Webサービス、出版などの業界でB2B、B2Cを対象としたPRコンサルティングを経験。2009年1月よりブランディング、マーケティング活動に従事。デジタルツールを駆使したマーケティングプランニングに精通しており、共著に『Twitterマーケティング』(インプレスジャパン)がある。2010年6月よりタッチパッド端末事業部ディレクターに就任し、「iPadブランドマガジン」をはじめとするタッチパッド端末事業の商品開発から営業/制作までを一貫して統括している。
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