不況を生き抜く、最高のおもてなしはディズニーに学べ(2/2 ページ)
米国でディズニー流のおもてなしを学んでいるのはハーゲンダッツやボルボなどの有名企業だけではない。病院や公立学校もディズニーのシークレットを学んでいる。
患者から感謝の手紙をもらえるようになった病院
では、実際の現場ではどう活用されているのだろうか? カリフォルニア州にあるバートン・メモリアル病院は、従業員の流出と患者満足度の低さに加え、近くに新しい病院が建つことで患者獲得合戦になるのではないかと頭を痛めていた。そこで、ディズニーのトレーニング・セミナーを導入することに決めた。
プログラムは次のように行われた。まず、ディズニー・インスティチュートの担当者が病院を訪れて視察をし、950人もの従業員にインタビューを実施。それから、問題点を解決するためのオリジナルプログラムを組んだ。その結果、数十名のマネージャーを教育することが必要だと判断し、フロリダにあるディズニー・ワールド・リゾートへ集結させ、3日間の現地研修プログラムを施した。
そこでは実際に働くキャスト※を例に、ディズニー流哲学を病院でのシチュエーションに置き換えられるように一つひとつ丁寧に説明していく。
※編集部注:
ディズニーでは、来場者をゲストと呼び、ゲストを迎えるスタッフ(アルバイトも含む)をキャスト(役者)と呼ぶ
例えばこうだ。ディズニーランドを訪れるゲストが夢と魔法の王国が常にクリーンで安全でフレンドリーであるのを期待しているように、病院でも患者が期待するものを提供しなければならない。顧客の期待に沿わないと、ビジネスは破綻する。
また、ディズニーではすべてのキャストメンバーが名前で呼ばれ、役職などは名札に記載されていない。そのため、役職や立場に関係なく全員がゴミを拾い、訪れるゲストに最高のおもてなしを提供できるように努めている。それを病院スタッフに「実体験」させるのだ。
ディズニーのトレーニング実施後、バートン・メモリアル病院の従業員の離職率は下がり、結果的に20万ドル(約1600万円)もの経費削減につながった。さらに、患者満足度のスコアも上がり感謝の手紙が激増するなど大きな成果を得るようになった。
不況による消費者のいらだちはサービスに向かう
学校も例外ではない。米国の財政危機で大幅に予算をカットされた公立学校では、限られた予算内で教師の質を保ち、生徒の学力を上げなければならないというプレッシャーに苦しめられている。そうした学校の多くが、ディズニーの哲学を導入しているのだ。過去2年間だけで約300校がディズニー・インスティチュートのプログラムを利用した。そうした状況を考えると、教育機関でもディズニー流哲学は有効のようだ。
普段から大勢のキャストをトレーニングして最高のサービスを提供しているディズニーが、スポーツイベントのマネジメントにも自信を見せるのも当然だ。2010年のサッカーワールドカップ南アフリカ大会では、約1万5000人もの現場スタッフを対象にトレーニングを行った。また、米国最大のスポーツイベントであるスーパーボウルで座席配置トラブルを経験したことのあるNFLも、2012年の大会でディズニーを雇った。2万人のスタッフ・トレーニングを行い、興奮した群衆をうまくコントロールすることに成功したNFLは、来年もディズニーを雇う予定でいる。
ディズニー・インスティチュートが行うプログラムは、米国以外のディズニーランドでも受講が可能※だ。もちろん、東京ディズニーランドでも企業や団体向けの研修プログラムとして展開している。残念ながら、おもてなし国家・日本ではまだまだ知られていないのだが。
一向に不況から抜け出せない米国では、消費者のいらだちの矛先がサービスに向かっているという分析もある。でも、結果的にはその不況により、米国のビジネスシーンにおけるサービスが向上しつつあるとの側面もある。ビジネスがうまくいかなくなった場合、目先のトラブルに気を取られがちだが、ディズニー流の哲学によれば、長い目でみた顧客との信頼関係の構築こそが重要だという。顧客との間に築いた信頼は、結果的にはビジネスにつながる。サービス大国の日本も、うかうかしていられない。
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